ナタリー・シュトゥッツマン(指揮)

歌手として恵まれた今こそ指揮者への道を

Photo:Simon Fowler
Photo:Simon Fowler

 当代随一のコントラルト歌手ナタリー・シュトゥッツマンは、近年指揮者としてのキャリアを築きつつある。2009年に「オルフェオ55」という室内オーケストラを創設し、自ら指揮台に立っており、日本でも水戸室内管や小澤征爾音楽塾などで指揮を披露している。そして遂にこの9月、新日本フィルの定期演奏会に登場する。
 彼女は「指揮者への道が頭から離れることはなかった」という。
「学生時代に指揮のクラスでも学び、歌手としてもカラヤンをはじめとする錚々たるマエストロのリハーサルを間近で観察してきました。しかし、歌手は声が出なくなったから指揮を始めたと思われがち。ですから声楽家として脂が乗っていながら、レパートリーをある程度確立し、指揮に焦点を当てて勉強できる…。こうした条件が整うのを待っていたのです」

小澤とラトルのバックアップ

 背中を押してくれたのは、「2人の恩師」である小澤征爾とサイモン・ラトルだった。
「まず小澤さんに話すと、試しに振らせてくれました。すると『指揮の感覚が掴めている。本格的にやるべきだ』と。それをラトルさんに話すと、フィンランドの伝説的な教師フィオナ・パヌラ先生をご紹介いただき、歌手活動と並行してヘルシンキに通いました。その後、小澤さんからはテクニック的なアドバイスも受け、ラトルさんは私のことを彼のマネージャーに推薦してくださいました」
 かくして多くの楽団から声がかかり、指揮の醍醐味も感じているという。
「音楽家を相手に自分の考えを実現していくところが面白い。歌っているときも幸せですが、私の場合はどうしても、珍しい声に注目が集まります。ところが指揮は音楽そのものが注目される。そこが凄く嬉しいですね」

新日本フィルと共演

 新日本フィルでは、武満、シューベルト、ビゼーの作品を取り上げる。
「まず、意外に演奏される機会が少ないビゼーの『アルルの女』を選びました。また公演が9月11日ですから、9・11を追憶して武満徹の『弦楽のためのレクイエム』と、それに合うシューベルトの交響曲第4番『悲劇的』を組み合わせ、後半に明るい色彩をもつ『アルルの女』を置けば、完成度の高いプログラムになると考えました」
 前半2曲は、小澤や自身が培った歌との関連性がある。
「『弦楽のためのレクイエム』は、聴いた瞬間に心に響いた曲。小澤さんにも関わりがあって、色々と話を聞くこともできました。『悲劇的』は、キャラクターが豊かで、第2楽章はリートを彷彿させます(その旋律を歌う)。この素敵な時間を皆で分かち合いたいですね」
 『アルルの女』は、自国フランスの名作だ。
「私も近しい南仏プロヴァンスの香り立つ音楽。とてもロマンティックで、特に第1組曲のアダージェットは素晴らしい。私にとってビゼーは、ドビュッシーやラヴェルと並ぶフランス音楽の代表格。夭折が惜しまれます」
 ちなみに新日本フィルとは、1998年と2006年にソリストとして共演し、「オープンで現代的なスピリットをもつ優秀な楽団といった印象が残っている」との由。
 歌と指揮活動の比率は「50パーセントずつが理想」と語る彼女だが、「有名オーケストラから次々に来るオファーは断れない」し、モンテカルロでは何と《タンホイザー》を振る。指揮活動は今後ますます充実していきそうだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)

新日本フィルハーモニー交響楽団
#547 定期演奏会
9/11(金)19:15 サントリーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
http://www.njp.or.jp