国内外で多彩な活躍を続ける現代最前線のパーカッショニスト・加藤訓子が、英国Linn Recordsとのコラボ10周年を記念したニュー・アルバム『三善晃へのトリビュート ― マリンバ作品集』をリリースした。これは、2013年に世を去った日本を代表する作曲家の一人、三善晃のマリンバ独奏のための全作品と協奏曲を収録した意欲的なディスクであり、過小評価されていると思しき三善の業績を世界に向けて発信した意義深い録音だ。
収録されているのは、1960年代の作品3曲と2000年前後の作品2曲。そのうち3曲が、加藤の師である安倍圭子もしくは安倍が関わった催しのために書かれている。また三善晃は加藤が学んでいた当時の桐朋学園の学長で、「協奏曲」は在学中に演奏し、三善のレッスンも受けたとの由。加藤が「一曲一曲を丁寧に仕上げた」と語る本作は、自らが近しい偉大な音楽家へのリスペクトをこめた一枚でもある。
1曲目の組曲「会話」(1962)の冒頭から魅惑の音空間に誘われる。この曲は三善がマリンバを知るきっかけとなった田村拓男と2歳の息子との会話に基づく作品で、同楽器を学ぶ奏者の必須曲。曲の柔らかくチャーミングなテイストと、音色を巧みに変化させた絶妙な演奏は、すこぶる魅了的だ。
2曲目の「トルスⅢ」(1968)は、本盤の5曲の中では前衛的な作品。デリケートな弱音から明確で強い動きに至るダイナミックレンジの広い演奏で、シリアスな音楽が明快に表現される。次の「リップル」(1999)は、第2回マリンバ世界コンクールの二次予選のために書かれただけあって、様々な音色・音域や表情をもったテクニカルな作品。ここでも加藤は鮮やかなパフォーマンスを展開し、コンクールを離れた1つの“傑作”として響かせる。
代わっては、スコティッシュ・アンサンブルと共演した「マリンバと弦楽合奏のための協奏曲」(1969)。加藤と異国の弦楽奏者たちが緊迫感漂う刺激的な世界を創出し、他の曲との質感の違いが新たな感興をもたらす。三善を知らない彼の地のメンバーが、加藤の迫真性に触発されながら加熱していく様も聴きものだ。
ラストの「六つの練習前奏曲」(2001)は、未出版のまま残されていた三善最後のマリンバ作品の貴重な録音。これまた陰影豊かな演奏によって、“練習曲”が素敵な“音楽”として伝えられる。
多種多様な音色とニュアンスこまやかで研ぎ澄まされた表現を併せ持つ鮮烈な演奏は、すべてに聴き応え充分。魅力的な音空間と訴求力抜群の音楽に終始引き込まれ、マリンバの可能性と三善作品の凄さを改めて認識させられる。加えて、場の空気感が伝わるリアルな録音も素晴らしく、加藤自身と三善晃の言葉による解説も興趣を盛り上げる。
ここには、“マリンバでしか表現し得ない音世界”と“三善晃でしか表現し得ない音楽世界”がある。この好ディスクは、普段“現代音楽”を聴かないファンもぜひ耳にしてほしい。
文:柴田克彦
加藤訓子(パーカッション)
スコティッシュ・アンサンブル
三善晃(1933-2013)
1. 組曲『会話』 (1962)
2. トルス III (1968)
3. リップル (1999)
4. マリンバと弦楽合奏のための協奏曲 (1969)
5. 六つの練習前奏曲 (2001)
Linn Records/ナクソス・ジャパン
CKD635 ¥オープン
【Information】
●加藤訓子さんがOTTAVAに出演!
11/20(金)13:00〜17:00 午後のワイド番組「OTTAVA Andante」に加藤さんが出演。
NEWアルバム『三善晃へのトリビュート』について、たっぷり語っていただきます。
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