トビアス・ヴァン・デア・パルス(チェロ) & 崔 文洙(ヴァイオリン)

音楽史に埋もれた作曲家の出世作を新日本フィルが日本初演!

左:崔 文洙 右:トビアス・ヴァン・デア・パルス
Photo:I.Sugimura/Tokyo MDE

 4月17、18日、すみだトリフォニーホールで上岡敏之指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団により、レオポルド・ヴァン・デア・パルス(1884-1966)の交響曲第1番が日本初演される。公演を前に、作曲者の兄弟のひ孫で、チェリストのトビアス・ヴァン・デア・パルスが来日。新日本フィルのソロ・コンサートマスター崔文洙と、知られざる作曲家について語り合った。

 ヴァン・デア・パルスとはどういう人なのか。崔の問いに、トビアスは絢爛たる音楽家の名とともに紹介してくれた。
「ヴァン・デア・パルスの祖父ユリウス・ヨハンセンは、メンデルスゾーンとニルス・ゲーゼに学び、アントン・ルビンシュタインの要請で、対位法を教えるためサンクトペテルブルクの音楽院に赴任、のちに学長も務めています。チャイコフスキーやグラズノフ、リムスキー=コルサコフが訪ねてくるような家庭で育ったヴァン・デア・パルスは、祖父の弟子ジロティのもとでラフマニノフとともにピアノを学び、二人は親友となりました。ラフマニノフの勧めでベルリンに行き、グリエールに作曲を学びます。生徒は二人だけで、もうひとりはクーセヴィツキーです。24歳で作曲した交響曲第1番は、1909年ベルリン・フィルにより初演され、25もの批評が出る大成功を収めました」

 崔は、交響曲第1番のスコアを見た印象を「抒情的でドラマティック、エモーショナルな作品。ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番と同じような響きもありますね。ヴァイオリニストの立場から見て、弦のパートはとても弾きやすい」と話す。トビアスは「お互いに作品を演奏し合った二人ですから、間違いなく意見を交換したと思います。ただ、ヨーロッパの伝統を受け継ぐヴァン・デア・パルスと、ロシアの血が流れるラフマニノフは対照的な作風です。私もチェリストなので、弦について崔さんのおっしゃることはよくわかります」と返した。今回はラフマニノフの交響曲第2番も演奏されるので、聴き比べも興味深い。

 しかし、なぜヴァン・デア・パルスは音楽界から忘れ去られたのだろう。トビアスは言う。
「第一次世界大戦が始まるまでは大成功を収めたのですが、妻が足の神経の病気となり、ヨーロッパ中のサナトリウムを、12年間に80ヵ所も転々とせざるをえませんでした。作曲は続けたものの、自作の初演にも立ち会えなかったのです。妻の死後、今度は第二次世界大戦が始まり、そのままスイスにとどまりました。戦後は前衛音楽が主流となり、ヴァン・デア・パルスの出番はなくなってしまいました」

 筆者が、昨年のマニャールの交響曲第4番に続き、上岡が知られざる作曲家を取り上げる点について崔に聞くと、「スコアを読み刺激を受け、音にしたいと思う気持ちが生まれるようです。今回もこだわりがあり、絶対に演奏会で紹介するという強い意志があります」と答えた。

 トビアスは、今後の抱負について「20年前に、オペラ、歌曲、交響曲、室内楽など250ものヴァン・デア・パルスの作品を発見しました。彼の作品を広めることは私の生涯のプロジェクトになると思います」と意欲を語り、また「作曲家にとって重要な“作品1”が、『日本の詩による5つの歌』という歌曲集なのです」と、日本に縁のある話も披露してくれた。4月15日には、すみだトリフォニーホール小ホールで行われるトビアスのリサイタルで、歌曲集の第3曲、大津皇子の詩にもとづく「狩りの後で」がチェロ版で弾かれる。

 最後にトビアスは「音楽史に埋もれたヴァン・デア・パルスに、新たなスポットが当たる機会になってほしい」と語り、公演に大きな期待を寄せた。
取材・文:長谷川京介
(ぶらあぼ2020年4月号より)

*指揮を予定しておりました上岡敏之は、新型コロナウイルス感染拡大防止のための入国制限措置により、出演ができなくなりました。なお、代理の指揮者は調整中です。(4/1主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

【information】
新日本フィルハーモニー交響楽団 第618回定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉
2020.4/17(金)19:15、4/18(土)14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp
※トビアス・ヴァン・デア・パルスの出演は4/15のリサイタルのみ(リサイタルは中止となりました)

  • La Valseの最新記事もチェック

    • エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)| いま聴いておきたい歌手たち 第14回 
      on 2020/03/25 at 06:59

      text:香原斗志(オペラ評論家) ハングリー精神とテクニック 忘れている人、あるいは知らない人も多いのではないだろうか。2003年11月、新国立劇場で上演されたオッフェンバック《ホフマン物語》にエリーナ・ガランチャは出演し、ニクラウス/ミューズを歌っていた。もちろん、低域から広域までのなめらかな声と豊かな感情表出で強い印象を残したけれど、まだ圧倒的な歌唱とまでは言えなかった。 03年は、ガランチ [&#8230 […]