オリジナル楽器で蘇るブラームスの新鮮な世界
古楽とモダン、両方のフィールドで国際的に活躍する俊英ヴァイオリニスト、佐藤俊介。そんな彼が、妻であり鍵盤楽器の若き名手でもあるスーアン・チャイ、バロック・チェロの先駆者で指揮者としても活躍する鈴木秀美と共演し、オリジナル楽器でブラームスの室内楽に対峙する。オリジナル楽器による演奏が定着した今でも、ロマン派の作品への取り組みは珍しいが、「想定できないこともあって、エキサイティング」と佐藤。貴重な機会となりそうだ。
「よく知られた作品でも、ひとつの疑問を持てば、全く新しいものとして味わう事ができます。半世紀ほど前、アーノンクールら古楽の先駆者が、バロックや古典派のレパートリーで実践していたように…。まだ前例も少なく、研究が進んでいないのですが、そろそろそんな試みが、ロマン派時代の作品で行われて良いのではないでしょうか。時代特有のエッセンス、演奏方法や美学を存分に知れば、作品観は180度変わるかもしれない。できるだけ先入観を持たないように心がけています」
今回、佐藤は一番低いG線以外にピュア・ガット(銀線を巻かない裸のガット弦)を張り、鈴木はエンドピンを持たないチェロを使用。そして、チャイは、ブラームスが使用していたのと同型のJ.B.シュトライヒャーのフォルテピアノ(1871年製)を弾き、現代よりも少し低いa=438Hzの標準ピッチを採用する予定だという。
特にヴァイオリンの技術面で気遣うポイントとして、「レガート、ポルタメント、ヴィブラート」の3点を挙げる。
「例えば、レガートの場合も、バロックならば、音を一つひとつ立たせますが、ブラームスの時代は、幾つもの音をひと弓で弾き切るように、ゆっくりと長い呼吸で演奏します。鍵盤楽器と弦楽器の合奏の際には、音の溶け合いを実感できる。この時代の“木の箱”のようなピアノは、響き方が現代とは違い、楽器間の音量のバランスもとりやすい。音楽的に素直に演奏できるのです」
今回のステージでは、ブラームスが53歳で作曲した、ヴァイオリン・ソナタ第2番とピアノ三重奏曲第3番を大枠として、20代で書いたチェロ・ソナタ第1番などを挟む構成に。
「ブラームスの様々な面を味わえるように選曲しました。特に、ピアノ三重奏曲に関しては、ブラームスが亡くなる直前、イギリス人ピアニストを相手にレッスンをしたのですが、そのときに細かく指示が書き込まれたパート譜が現存しています。今回は、その楽譜を参考に“確信を持って”演奏できます」
佐藤の評価はヨーロッパでも非常に高く、来年6月からは100年近い歴史を誇る古楽演奏団体「オランダ・バッハ協会」の音楽監督への就任も決まった。
「大バッハやそれ以前、そして、それ以後。まるで、立ちはだかるように膨大な声楽作品のレパートリーを勉強する機会を与えられました。当面の目標はそれです。実は、僕の夢は、今回のように、ロマン派の作品をオリジナル楽器で演奏していくことなのです」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2017年7月号より)
浜離宮アフタヌーンコンサート
佐藤俊介(ヴァイオリン) × 鈴木秀美(チェロ) × スーアン・チャイ(フォルテピアノ)
6/30(金)13:30 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
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