小林研一郎(指揮)

ゆかりの楽団と生み出す“特別な灼熱”

©Satoru Mitsuta

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 小林研一郎にとってハンガリーは、1974年ブダペスト国際指揮者コンクールの優勝で、今に至る道が開けた、ゆかりの深い国。今秋彼は、その中で最も関係の深い楽団であるハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団(1987年から10年間首席指揮者と音楽総監督を務め、現在桂冠指揮者の地位にある)の日本ツアーで指揮をとる。
「この楽団が新たな常任を決めるとき、国が選定した3人の候補を選ばず、団員全員が『小林とやりたい』と言ってくれたこと。それが私とハンガリーの関わりの中で最大の出来事でした。以来、足しげく通い、コチシュさんに常任を交代後はしばらく離れていましたが、数年前から再び振るようになりました。すると不思議なことに、私が昔求めた、濃密で唸るような響きが戻ってくるのです。その上、この楽団には、マーラーも指揮した古(いにしえ)の響き、心を打つ独特の音が眠っていますので、それを掘り起こしていけるのは、とても嬉しいことです」

「幻想」を選んだ理由とは?

 今ツアーのメインはベルリオーズの「幻想交響曲」。むろん小林の十八番だが、選んだ理由は別にある。
「74年のコンクールの特別賞受賞コンサートで披露し、私のキャリアのスタートになった作品。ですから今回ハンガリーのオーケストラと演奏したいと考えました。この曲は人間が書き得た最大のドラマ。しかもベートーヴェンと同時代に、これほど強烈な世界が生み出されたのが凄い。演奏していると、豊かすぎる色彩感に圧倒されますし、身の毛がよだつような世界に引き込まれ、より突き詰めてみたいと思うのです。私は、第4、5楽章はもちろん、第2楽章の最後も第3楽章の雷も強烈に表現したい。ハンガリーに『幻想』は似合わないかもしれませんが、今回はそこにトライし、特別な“灼熱”を作り上げたいと思っています。もし灼熱の度合いが薄いと感じた方には、私のCDを無料で差し上げると言っておきます(笑)」
 前半最初はブラームスの「ハンガリー舞曲」の第1、5、6番。超有名曲だが、ツアーの本プログラムでの演奏は珍しい。
「私も3曲まとめて本プログラムに載せるのは初めて。今回は皆さんのイメージを覆す“小林流”の『ハンガリー舞曲』をお聴かせします。テンポもうねりも従来とは全く異なるアプローチで、ソロの即興演奏を若干加えたりもします。皆びっくりして目を剥くのではないでしょうか」

メンデルスゾーンには松田理奈が登場

 東京では松田理奈が弾くメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、他では仲道郁代が弾くグリーグのピアノ協奏曲も披露される。
「メンデルスゾーンの協奏曲では、オーケストラの抑揚や光と影、特に影の部分を強調します。第1楽章ではソロが出た瞬間にオーケストラの音を聞こえないほど落としたり、第3楽章ではサルタンド(弓を飛ばす)奏法で指が動く音を際立たせたり…。するとソリストと戦っているような鮮烈さが生まれます。松田さんとはこの曲を含めて何度も共演していますが、彼女はそれを受け止め、ならばこうしようという対応ができる奏者です」
 また仲道に関しては「共演回数が最も多いピアニストの一人。チャーミングで真摯でひたむきで、常に感謝の気持ちがあります」と信頼も厚い。
 マエストロは「メリハリをもって、琴線に触れる音を抉り出していかねばならない」などの熱い言葉を数多く話し、「新しいコバケンとハンガリー国立フィルを、皆さんの心の中に叩き込ませていただきますので、ぜひお出でください」と力強く語った。当コンビの2年ぶりの日本公演が、前回以上にエキサイティングな演奏になるのは、もう間違いない。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2016年10月号から)

小林研一郎(指揮) ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団
共演:松田理奈(ヴァイオリン)
10/31(月)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040

共演:仲道郁代(ピアノ)
10/29(土)富山市芸術文化ホール オーバードホール、10/30(日)白河文化交流館コミネス、11/2(水)フェスティバルホール

【指揮者変更について】
誌面では下記情報を掲載いたしましたが、指揮者変更となっております。
詳細はジャパン・アーツのホームページでご確認ください。

※ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団の来日公演は、他に同団音楽監督のゾルタン・コチシュ指揮に、ピアノの牛田智大が出演する公演(10/25 すみだトリフォニーホール)などもございます。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。 
http://www.japanarts.co.jp