2025年7月、Bunkamura オーチャードホールに世界のトップホルン奏者が一堂に会し、「ワールド・ホルン・サミット」が開催される。日本を代表するホルン奏者、福川伸陽の呼びかけに応え、シュテファン・ドール、ラデク・バボラーク、サラ・ウィリスといった名プレーヤーたち9名が揃い、“オーケストラの魂”とも称されるホルンの魅力を極限まで引き出す夢企画だ。その特別な公演に先立ち、Bunkamuraとともにこのイベントを立ち上げた福川と、ベルリン・フィルの首席ホルン奏者シュテファン・ドールとの対談が実現。楽器の魅力、コンサートの聴きどころ、そして今、ホルンの世界で何が起きているのか——その熱い想いを語り合った。

右:福川伸陽
世界的ホルン奏者が集う夢の祭典
——今回の「ワールド・ホルン・サミット」開催の経緯を教えてください。
福川 オーチャードホールのプロデューサーと雑談している中で、僕が世界のホルン奏者と繋がりがあることから、「みんなが一堂に会したら素敵だね」という話が出たのがきっかけです。三大テノールのようなイメージですね。まずは、僕がずっと尊敬してきたシュテファンに声をかけ、彼の賛同を得られたことで実現へと動き出しました。
ドール この話をもらったときはとても嬉しかったですね。各楽団のホルン奏者同士、会う機会はあるものの、一緒に演奏することは少ないので、こうした企画は貴重です。福川さんのオーガナイズ力には本当に感銘を受けています。

——プログラムは、ホルンとオーケストラの作品のほか、ワーグナーやラヴェル作品の編曲も並び、バラエティに富んだ内容となっていますね。
福川 まずは僕自身が皆さんの演奏で聴きたい曲を考え、それをお客様にも楽しんでいただけるよう構成しました。
ドール 素晴らしいプログラムですね。ホルン奏者は朗らかな人が多いので、選曲の過程も建設的でした。もし次回があれば、日本人作曲家に委嘱するのも面白そうですね。
福川 ぜひやりましょう!
——来場するお客様にはどんな点に注目してほしいですか?
ドール ホルンを演奏している方はもちろん、これまで馴染みのなかった方にも、この楽器の魅力を知ってほしいですね。これだけの名手が集まり、ホルンの響きを堪能できる機会は滅多にありません。
福川 ホルンは表現力が豊かで、多彩な音色を持つ楽器です。奏者それぞれに違った個性もありますし、音楽家としての表現力を存分に味わっていただきたいです。

ホルン音楽の今と未来
——トップ奏者であるお二人は、現代のホルン音楽シーンをどう捉えていますか?
ドール オーケストラの演奏会で取り上げられる協奏曲といえば、ヴァイオリンやピアノが中心ですが、今回も出演するサラ・ウィリス(ドールと同じくベルリン・フィルのホルン奏者)の活動などが、若い世代にホルンの魅力を広める上で大きな役割を果たしてきました。ホルン音楽の存在感は今、どんどん高まっていると感じています。
福川 教育プログラムの現場では、子どもたちはホルンもピアノも平等に聴いてくれますね。現代音楽を「いろんな音がして面白かった」と感じる子も多いです。ホルンの多彩な表現が、若い世代にも注目されつつあると実感しています。お客様にも「ホルン推し」の方が増えてきていると思います。
——お二人は今後、どのような活動を大切にしていきたいですか?
ドール オーケストラだけでなく、室内楽やソロのレパートリーを増やし、新しい作品を育てることが重要だと考えています。現代の作曲家たちは、すでに1960年代から1980年代の作曲家とは、もう違ってきていると感じます。彼らは「聴衆を一緒に連れて行こう」という思いを強く持っているのです。例えばイェルク・ヴィトマンの作品は引用や演劇的要素などの新しさと、伝統的な音楽の深みとが共存していますね。そうした作品を大切にしていきたいです。私は毎年少なくとも1曲は、世界初演を行うことを目標にしています。
福川 新しい音楽を未来に残すことは、僕らの使命だと思います。今僕たちが演奏しているモーツァルトのホルン協奏曲も、当時はそれが「現代音楽」だったし、ロイトゲープという名ホルン奏者がいたからこそ生まれた作品です。影響力のある奏者がいることで、素晴らしい作品は誕生します。その意味でも僕は、現代の作品が100年後に残されているように、積極的に活動していきたいと思っています。クラシックの長い歴史の中で、良い作品は必ず残っていくはずです。

——最後に、このサミットへの想いを一言。
ドール このコンサートは、ホルンの未来を切り拓く企画です。世界最高峰の奏者たちの響きを、ぜひ体感してほしいですね。
福川 僕自身、演奏を通じて素晴らしい出会いをしてきました。このサミットも、多くの方にとってホルン、そして音楽の魅力に出会う機会となれば嬉しいです。
取材・文:飯田有抄 写真:編集部
(ぶらあぼ2025年5月号より)
ORCHARD PRODUCE 2025
福川伸陽 共同プロデュース ワールド・ホルン・サミット
With オーケストラ
2025.7/12(土)19:00
サミットアンサンブル
7/19(土)19:00
Bunkamura オーチャードホール
問:Bunkamura 03-3477-3244
https://www.bunkamura.co.jp
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
他公演
2025.7/15(火) 東海市芸術劇場(愛知室内オーケストラ052-211-9895)
7/18(金) 大阪/ザ・シンフォニーホール(キョードーインフォメーション0570-200-888)
7/20(日) 高崎芸術劇場 音楽ホール(027-321-3900)