
自らの楽団で生み出す衝撃的な音楽
近年、以前では考えられないほど若い指揮者が、世界的オーケストラの重要ポストに就任するケースが増えている。代表例は1996年生まれのクラウス・マケラであろうが、それに続くのがタルモ・ペルトコスキだ。こちらは何と2000年生まれの25歳(2025年現在)。その俊才が、新たにシェフとなったフランスの名門トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団を率いて来日する。ソリストは世界的活躍が顕著な人気ピアニストの辻井伸行。これは2026年上半期屈指の注目公演だ。
名指揮者の宝庫フィンランドに生まれ、地元で学んだペルトコスキは、2022年1月、ドイツ・カンマーフィルの首席客演指揮者に抜擢。同年5月にはラトヴィア国立響の音楽監督兼芸術監督、9月にはロッテルダム・フィルの首席客演指揮者、12月にはトゥールーズ・キャピトル国立管の音楽監督就任が発表(トゥールーズのポスト就任は2025年から)され、20代前半の若さで名門オーケストラのポストを立て続けに得たことで高い注目を集めた。さらに2026/27年シーズンからは香港フィルの音楽監督にも就任。また、フィンランドのエウラヨキ・ベルカント音楽祭でワーグナーの《ニーベルングの指環》を指揮するなど、オペラ指揮者としても注目株となっている。
日本で大きな脚光を浴びたのは、2025年6月のN響定期だ。そこで若きペルトコスキはマーラーの交響曲第1番「巨人」等を指揮。強固な伝統と日本随一の実力を誇る同楽団を相手に大胆かつ個性的な演奏を展開し、ファン投票による「最も心に残ったN響コンサート2024-25」の第1位に選ばれるという快挙を成し遂げた。最大の特徴は、信じ難いほどの弱音を駆使したニュアンス豊かで清新極まりない音楽。2024年に名門ドイツグラモフォンからリリースしたドイツ・カンマーフィルとのモーツァルトの交響曲集の斬新な表現ともども、類い稀な才能を発揮し続けている。
1737年フランスの古都に設立されたトゥールーズ・キャピトル国立管は、アンドレ・クリュイタンス、ミシェル・プラッソンら歴代の音楽監督が国際的な名声を高め、特にプラッソンの時代にはフランスのエスプリに富んだ香り高い演奏で一世を風靡した。そして2005年首席客演指揮者・音楽顧問、2008年音楽監督に就任したトゥガン・ソヒエフが、より緊密かつ意欲的なアンサンブルを確立。2011年の『フィガロ』紙では、パリ管、パリ・オペラ座管と並ぶフランスのトップオーケストラと賞された。その魅力は無類の色彩感とエネルギッシュな躍動感。ペルトコスキとの初来日公演となる今回は、ソヒエフが培った機能美や生気・精彩を生かしながら、独自の新鮮さをいかに打ち出すか?に熱視線が注がれる。
プログラムは2種。いずれも前半は、辻井伸行がソロを弾くラフマニノフの協奏作品で、「パガニーニの主題による狂詩曲」とピアノ協奏曲第2番が並んでいる。共に辻井が何度も演奏している十八番であり、彼の豊かなダイナミズムやロマンティシズムが生きる作品だが、今回はペルトコスキが振るバックから新たな刺激を受けての鮮烈なパフォーマンスが期待される。
そして後半は、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」とショスタコーヴィチの交響曲第10番。両曲ともオーケストラ音楽の醍醐味が詰まった、シリアスかつダイナミックな作品であり、外来オーケストラの生演奏に接する機会が貴重な名作だ。前者は「巨人」以上に多彩な響きとハンマーの打撃をはじめとする大迫力や堅牢な構築、後者はショスタコーヴィチの中でも西洋色の強い造作や重層的で推進力に溢れた進行が魅力。ここは、ペルトコスキがN響で魅せた魔術師的なアプローチと、オーケストラのカラフルな特性が相まって、これまでにない色合いや光を放つインパクト絶大な演奏が繰り広げられるに違いない。なお当コンビは、ショスタコーヴィチを4月にトゥールーズで、マーラーを来日直前に地元とパリで披露する予定。ゆえに仕上がりきった状態で日本公演に臨むことになる。
あらゆる意味でエキサイティングな本公演。オーケストラ・ファンならずともぜひ体験したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2026年1月号より)
タルモ・ペルトコスキ(指揮)トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
ピアノ:辻井伸行
2026.6/8(月)19:00 サントリーホール 【B】
6/9(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール 【A】
出演/辻井伸行(ピアノ)★
曲目/【Aプログラム】ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番★、ショスタコーヴィチ:交響曲第10番
【Bプログラム】ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲★、マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
問:チケットスペース03-3234-9999
https://avex.jp/classics/onct2026
他公演
2026.6/6(土) 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)【A】 1/19(月)発売
6/7(日) 兵庫県立芸術文化センター(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)【B】 1/18(日)発売
6/11(木) 愛知県芸術劇場コンサートホール(東海テレビ放送 事業部052-951-9104)【A】
6/13(土) 札幌コンサートホール Kitara(011-520-1234)【A】 3/7(土)発売
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

