
第19回ショパン国際ピアノコンクールで過去最多642名の頂点に立ったエリック・ルー(27)が来日、公演に先立ち駐日ポーランド共和国大使館で記者会見を行った。12月12日、13日のNHK交響楽団 定期公演、12月15日、16日の第19回ショパン国際ピアノ・コンクール優勝者 ソロ・リサイタルの出演を予定している。チケットはいずれも完売。
会見では、ショパンコンクールを終えての心境、また現時点でのショパンに対する想いを語った。また質問の前には、ショパン ワルツ第7番 嬰ハ短調 op.64、ワルツ第5番 変イ長調 op.42の演奏も披露された。
——本選の結果発表のときにはあまりお話になりませんでしたね?
結果発表は午前3時でしたし、頭が十分に回っていなかったというのもあります。でも同時に、それ以上に感情が高ぶっていました。だからあの時は、ほとんど何も話せなかったのだと思います。
改めて振り返ると、私にとって本当に大きな夢がかなった瞬間でしたし、人生の中でも大きなマイルストーンの一つになりました。
——コンクールの後、人生にはどんな変化がありましたか。
まだ1ヵ月半しか経っていないので、いま何かを断定的に言うのは早いかもしれません。これから5年、10年という時間の中で、どんなふうに変わっていくのかを自分でも見ていきたいと思っています。
ただ、コンクールが終わった直後に3つのガラ・コンサートに出演し、その後は世界各地で25回ほどステージに立っています。また世界中のオーケストラからオファーをいただいたり、マネジメント会社から連絡をいただいたりして、いろいろな道が一気に開けた感覚があります。今は一つひとつの公演に丁寧に向き合い、大切に積み重ねていくことに集中しています。

——今回の日本公演でもショパンを演奏されますが、ショパンに飽きてしまうということはありますか?
体力的に「少し疲れたな」と感じることはあります。でも、ショパンを弾くことに飽きたと思ったことは一度もありません。
日本の素晴らしいホールで演奏できることをとても楽しみにしていますし、優勝後初めての来日でもあります。日本の聴衆の皆さんに、ショパンの素晴らしい音楽を真剣に、誠実にお届けできるようにしたいです。
——ルーさんにとってショパンとはどのような存在でしょうか。
これは本当に難しい質問ですね。ショパンは天才であり、彼が残した音楽の大きさを思うと、時に「彼が人間だった」ということを忘れてしまいそうになることがあります。
ただ同時に、ショパンは一人の人間としても非常に魅力的で、複雑な心を抱えて生きた人だったと思います。困難な人生を歩みながら、その心の深いところにある精神性を音楽に込め、39年という短い生涯で、200年たった今も世界中に愛され続ける作品を作った。その事実を考えると、世界がどれだけ変わろうとも、ショパンの音楽にあふれる人間性や本質は、きっと今も変わらず私たちに届き続けているのだと思います。

——ショパンを演奏するにあたって、どのようにアプローチし、どんなリサーチをされたのでしょうか?
ご質問への答えを一言でまとめるのは難しいのですが、私にとってショパンの演奏は、分析的に計画して作り上げたものではありません。ショパンへの傾倒は、10〜11歳の頃から始まっていて、彼の音楽は多くの場合、直感的に自分の中に入ってきますし、その瞬間に受けた感情的な衝撃は決して忘れるものではありません。そこに成長とともに精神性や哲学的な視点が重なることで、理解がさらに深まっていっているように思います。
ショパンについては、「理解しやすい作曲家」と言い切るつもりはありませんが、私にとっては比較的、感情のレベルで近しい作曲家の一人です。彼の音楽は非常に直接的に、感情へ訴えかけてくるからです。
特に今回演奏した作品の多くは晩年のもので、音楽が抽象的でありながら暗さを帯びていく時期にあたります。感情の深いところへ沈み込むような、この種の音楽こそが、私が最も共感し、愛しているタイプの音楽です。なぜなら、その深みは尽きることがないからです。

——争いや分断が絶えない社会の中で、ショパンの音楽は私たちに何をもたらしてくれるのでしょうか?
また、いちばんお気に入りのショパン作品を教えてください。
正直に言うと、その問いに対しての答えは持ち合わせていません。でも、そもそもなぜ戦争や紛争が起きるのかという問題は非常に複雑です。どれだけ時代が変わっても、人間の本性はあまり変わらない。歴史は繰り返します。
人間には偉大な側面がありますし、芸術や技術の進歩で驚くほどのことを成し遂げられる。知性は計り知れないほど巨大です。けれど同時に、人間性には負の側面も本質的に存在する。音楽がそうした問題を根本的に解決できるとは、私は思っていません。
ただ、もし世界の権力を持つ人たち、つまり政治的に最も高い立場にいる人たちが、ショパンやバッハ、モーツァルトやベートーヴェンの音楽を聴くようになれば、もしかすると問題は少し良くなるのかもしれません。
そして「いちばん好きなショパン作品は?」という質問ですが、私にはまだ子どもはいませんが「いちばん好きな子どもは誰?」と聞かれるのと同じくらい難しい問いです。
答えはその時々で変わるかもしれませんが、今いちばん惹かれているのは「幻想ポロネーズ」です。
取材・文:編集部

ウルシュラ・オスミツカ(ポーランド広報文化センター所長)、エリック・ルー
キース・トゥルーラブ(UBSアセット・マネジメント 代表取締役社長)
アレクサンデル・ラスコフスキ(ポーランド国立フリデリク・ショパン研究所 広報担当)
《エリック・ルー出演公演》
NHK交響楽団 第2053回 定期公演 Cプログラム
12/12(金)19:00 NHKホール【完売】
12/13(土)14:00 NHKホール【完売】
問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール優勝者 ソロ・リサイタル
12/15(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール【完売】
12/16(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール【完売】
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
ショパン国際ピアノコンクール 2025 入賞者ガラ・コンサート
2026.1/22(木)18:30 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)【完売】
1/23(金)19:00 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)【完売】
1/24(土)14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
1/25(日)14:00 京都コンサートホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
1/27(火)、1/28(水)各日18:00 東京芸術劇場 コンサートホール(ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212)【各日完売】
1/29(木)18:00 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)【完売】
1/31(土)13:30 愛知県芸術劇場 コンサートホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)【完売】
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。



