INTERVIEW 寺神戸亮(指揮/ヴァイオリン)

北とぴあ国際音楽祭2024
モーツァルト最晩年の傑作オペラ・セリア《皇帝ティートの慈悲》の魅力を語る  

寺神戸亮 ©Tadahiko Nagata

取材・文:岸純信(オペラ研究家)

 18世紀の欧州で大流行した「オペラ・セリア(正歌劇)」は、「パトロンたる君主に観てもらう」ためのジャンル。だから、フランス革命後は勢いが衰えたが、1791年というぎりぎりの時点で、モーツァルトが《皇帝ティートの慈悲》を、分野の最高傑作として誕生させた。

 本作は、ボヘミア王の戴冠式用に書かれ、世界初演はチェコのプラハにて(1791年9月)。物語はローマ皇帝の妃選びであり、野心家ヴィテッリアが、自分を選ばないティートの暗殺を謀るという物騒なもの。しかし、最後には皇帝が一同を寛大に赦し、大合唱で幕となる。今年、このオペラを取り上げる北とぴあ国際音楽祭の指揮者、寺神戸亮に抱負を訊ねてみた。

「モーツァルト最晩年の作だけに、熟達した筆致は疑うべくもない《皇帝ティートの慈悲》ですが、まずは、北とぴあ国際音楽祭でモーツァルト の「ダ・ポンテ三部作」全部に出演しお馴染みの名ソプラノ、ロベルタ・マメリさんが8年ぶりの音楽祭再出演で歌うヴィテッリアの感情表現の激しさと、当時は新しい楽器のクラリネットが活躍する点の二つにご注目ください。演奏団体レ・ボレアードには今回、人気奏者の満江菜穂子さんが参加されます。暗殺の命に悩む青年セストのアリアで、クラリネットが全音域を駆使するさまにご期待ください」

 寺神戸にとってモーツァルトはどのような存在か?
「子供の頃は余り面白い作曲家と思っていませんでしたが(笑)、ロマン派に傾注した学生時代、《ドン・ジョヴァンニ》や『レクイエム』の劇的な響きに驚き、ホグウッドの全集を聴いて触発され、図書館通いで楽譜を読みました。いまや、バッハと並んで自分の核をなす作曲家です。ところで、《ティート》をモーツァルトは18日間で書き上げたそうですが、この短期決戦の裏には『歌手がなかなか決まらなかった』事情があるようです。歌い手の技量を最大限発揮させるべく奮闘したモーツァルトは、『自分は仕立て屋だ』とも言っています。音楽の職人としての誇りでしょう。高いレヴェルのもと、専門性を常に提供できるのが職人です。モーツァルトはどんな依頼にもプロとして応えました」

左より:ロベルタ・マメリ/ルーファス・ミュラー ©Eleanor Bentall/大山大輔 ©Yoshinobu Fukaya

 最後に、オペラ・ファンへのメッセージを。
「まずは、バロック・オペラを愛される皆さんに、『古典派の大傑作もぜひ味わってください! 音楽の新境地を体感してください』と呼びかけます。ティート役のテノール、ルーファス・ミュラーさんは、北とぴあでは御馴染みの知的な名歌手ですし、セスト役のメゾソプラノ、ガイア・ペトローネさんとは初共演が楽しみです。また、近衛兵の長プブリオ役のバリトン、大山大輔さんは経験豊富で多才な方。今回は演出も担当されます。斬新な舞台造りにぜひご注目ください!」

北とぴあ国際音楽祭2024
モーツァルト作曲 オペラ《皇帝ティートの慈悲》(セミ・ステージ形式/イタリア語上演・日本語字幕付)

2024.11/29(金)18:30
2024.12/1(日)14:00
北とぴあ さくらホール


出演
指揮:寺神戸亮
演出:大山大輔

ティート:ルーファス・ミュラー(テノール)
ヴィテッリア:ロベルタ・マメリ(ソプラノ)
セスト:ガイア・ペトローネ(メゾソプラノ)
アンニオ:高橋幸恵(メゾソプラノ)
セルヴィリア:雨笠佳奈(ソプラノ)
プブリオ:大山大輔(バリトン)

合唱・管弦楽:レ・ボレアード(ピリオド楽器使用)

●料金
一般:SS席9,500円 S席7,500円 A席5,500円
北区民割引:SS席8,500円 S席6,500円
U-25:SS席4,750円 S席3,750円 A席2,750円

問:北区文化振興財団03-5390-1221 
https://kitabunka.or.jp/himf/
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。