コンマス、首席奏者が振り返る欧州ツアー2024
協力:読売日本交響楽団
コンサートマスターの林悠介さん、首席オーボエ奏者の荒木奏美さん、首席ホルン奏者の日橋辰朗さんの3人に、読響欧州ツアー全8公演を終えた翌日(現地時間10/25)にお話を伺いました。
——ツアー全8公演を終えて、感想をお聞かせください。
林 日本とは違う雰囲気の空間で、多くの収穫がありました。今回、僕は日下紗矢子さん(特別客演コンサートマスター)との出番の分担で一部出演しない曲もあったのですが、ステージで演奏していても、客席から聴いていても、いつも通り、時にはいつも以上の演奏で読響のサウンドをホールに響かせていたと思います。どの楽器もそれぞれのメンバーが自分の個性を発揮していて、誇りに思いました。
日橋 僕にとってはオーケストラの楽団員として初めての海外ツアーでした。お客様からのダイレクトな反応が印象的でしたし、ホールの湿度や音響の関係で、演奏中に自分自身のサウンドが聴こえてくる感覚が日本と違い、それに慣れるまで時間がかかりました。他のパート、特に木管楽器はとても音がクリアに聴こえて、ある程度コツをつかんでからは日本のホール以上に演奏しやすかったように感じています。
荒木 私にとっても吹きやすい空間でした。こじんまりしたホールもあればベルリンのフィルハーモニーのように有名で大きなホールもあって、弦楽器の聴こえ方もそれぞれで違いましたし、各地のホールで色々な吹き方を試すことができた期間でした。どの会場もお客様が自由にリラックスした雰囲気で、何よりポジティブに聴いてくださるので、こちらも色々と挑戦ができたのだと思います。お客様と一つの空間を共有している一体感がありました。
——ツアーで特に印象に残っていることはありますか?
荒木 ツアー中、自分が降り番(出番でない)の曲では客席からゲネプロや本番を聴くことができて、オーケストラから客観的にもらえる刺激が大きかったです。また、読響の管楽器は各パートに首席奏者が2人いますが、普段ステージで一緒に演奏できることは基本的にないですし、会える機会も限られています。首席奏者同士が交流したりお互いの演奏を聴いたりできたのもこのツアーの醍醐味だったと思います。前半と後半で出番を分担していた公演もあったので、自分が演奏するのと同じ日に同じ会場でもう一人の演奏を聴くことができて嬉しかったです。
日橋 僕も松坂隼さん(首席ホルン)の演奏を客席で聴いて、この曲ってこういう吹き方もできるんだ! という発見がたくさんありました。自分と違う音楽的なアプローチを知ることができる良い機会でした。
荒木 今回、金子亜未さん(首席オーボエ)の演奏を聴くことに加えて、プライベートのお話も聞いたり、舞台裏での様子や公演当日のルーティンなどを見たりすることができて、とても興味深く貴重な機会でした。チャイコフスキーの交響曲第4番を客席で聴いた後に、感動のあまり亜未さんにツーショットを撮ってもらった日もありました(笑)
——常任指揮者のヴァイグレさんとの8公演はいかがでしたか。
荒木 同じプログラムを何度も演奏したからこそ、いつもと違うアプローチに挑戦することができたのですが、ヴァイグレさんはそれをいつも受け入れてくださって、私の演奏に反応して音楽を作ってくださいました。「アンサンブルをしている」という実感がとても大きかったです。
日橋 回数を重ねたからこそできた演奏が多くありましたよね。
林 同じ曲を何度も弾くということで、音楽的に新鮮さを保ち続けられるか、大変な部分もありましたが、それ以上に多くの発見があり、何より楽しかったです。じっくり何度も演奏したからこそ作品の様々な良いところに気付くこともできました。
——毎回、響きの異なる会場での演奏でしたが、どのように感じましたか?
荒木 毎日、どんな響きがするのかと不安もありましたが、リハーサルでリードなどを調整しながら対応しました。リードは、予備や“お守り”を含めて50本ほど持ってきました。そんな中、ホールの響きがオーケストラのサウンドを作る、ということを気付かされました。ハンブルクのエルプフィルハーモニーでは、ミューザ川崎の響きを思い出しました。
日橋 フィルハーモニーであればベルリン・フィル、バーミンガムのシンフォニーホールであればバーミンガム市響のように、各地のホールでそこを本拠地としているオーケストラがありますが、それぞれのオーケストラがどうしてその特有のサウンドを持っているのか、どのようにそのサウンドが築かれたのか、自分自身が吹いてみることで理由を知ることができました。
林 同感です。同時に、初めてそのホールで演奏するメンバーがほとんどの中、どの会場でも読響のサウンドを発揮できるのが読響の強さだと感じました。ゲネプロでの入念なチェックを経て、本番で一気に読響のサウンドを開放できたことに喜びを感じています。
——今回のツアーを通して気付いた読響の良さ・魅力があれば教えてください。
荒木 本番での集中力の高さと、一人ひとりが心から音楽を楽しんでいるという姿勢です。ツアー終盤も、疲れが溜まっているはずなのに本番でギアが落ちることは決してありませんでした。どこの会場でもどの演奏会でも常に120%の力を出そうとするのは読響の強みだと改めて感じています。
日橋 演奏するのが僕らの仕事ではあるけれど、読響にいると演奏を「業務」としてこなしている感じがしないんです。いつも音楽をしていて楽しい。それに今回は2週間以上の長い期間一緒に過ごしましたが、ずっと雰囲気が明るくて、居心地がよかったです。
林 このツアー中にヴァイグレさんにも言われましたが、バックステージでこんなに笑い声が聞こえるオーケストラはなかなかないと思います(笑)
日橋 フィリンゲン=シュヴェニンゲンの会場は、かつて修道院の礼拝堂だった場所で、ホールの音が密閉されていなかったんですよね。それにもかかわらず舞台裏での会話が盛り上がりすぎて、客席に聴こえそうだと注意されたとか(笑)
荒木 ヨーロッパでは日本よりも楽屋スペースが狭いホールが多く、本番前に限られた空間にみんなが集っていたからこそ、いつも以上に同じテンションを共有しながらステージに行ける感じがありましたよね。読響はいつも本番前、緊張感がありつつも明るい雰囲気で、お互いがお互いにリラックスさせる作用もあるように感じます。
日橋 本番前は明るくふざけていても、本番の集中力はとにかくすごい。ポジティブな意味で緊張感があって、自分にも試練を与えられる環境です。
林 ツアーを終えて改めて、読響って良いオーケストラだなと思えました。
荒木 ハードなプログラムだったのに…みなさんの素敵なところをたくさん知ることができた2週間でした。
——今回の欧州ツアーの経験をどう活かしていきたいですか?
荒木 それぞれのホールで発見した空気・響き、アンサンブルの感覚、お客様の反応を忘れずにいたいです。これらをキープしながら挑戦を続けることで、自分自身もオケも成長できるのではないかと思います。
日橋 僕は留学経験がなかったこともあり、今回ドイツとイギリスで触れた空気、オフの時間の観光を通して学んだ歴史などの知識も今後の大きな糧になると感じています。与えられた業務として演奏するだけでなく、ツアー中に感じたことを自ら演奏に活かしていきたいです。
林 お客様と時間を共有し楽しむという感覚の大切さを思い出すことができました。それを日本に持ち帰りたい。日本のお客様はとても集中して演奏を聴いてくださいますが、日本だから、ヨーロッパだから、という概念に捕らわれずに、常にオープンな気持ちでお客様に読響の演奏をお届けしていきたいです。
読売日本交響楽団 欧州ツアー2024
10月13日(日) ニュルンベルク/マイスタージンガーハレ
10月14日(月) フィリンゲン=シュヴェニンゲン/フランツィスカーナー・コンツェルトハウス
10月16日(水) ベルリン/フィルハーモニー
10月18日(金) ハンブルク/エルプフィルハーモニー
10月20日(日) ミュールハイム・アン・デア・ルール/シュタットハレ
10月22日(火) ベイジングストーク/ジ・アンヴィル
10月23日(水) バーミンガム/シンフォニーホール
10月24日(木) ロンドン/カドガンホール
※日付は現地時間
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読売日本交響楽団
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