リハーサル直後の牛田智大さんにインタビュー
ひばり弦楽四重奏団とのショスタコーヴィチ ピアノ五重奏曲に向けて

牛田智大さん

取材・文・写真:編集部

 6月26日、浜離宮朝日ホールで、人気、実力ともに日本を代表する若手ピアニストのひとり、牛田智大さんが室内楽に挑戦する。初共演となるひばり弦楽四重奏団と演奏するのはショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲。先日、初回のリハーサルが行われ、練習を終えたばかりの牛田さんに話を聞いた。

 漆原啓子さん、漆原朝子さん(以上ヴァイオリン)、大島亮さん(ヴィオラ)、辻本玲さん(チェロ)という日本屈指の名手たちと音を出した感想を「圧倒されるようなアンサンブル」と表現する牛田さん。
「室内楽の演奏には、複数の奏者がお互いに歩み寄って『ひとつの音楽をつくる』ことと、それぞれが自己主張をすることで『複数の独立した音楽を同時に存在させる』という、ある意味で矛盾した2つの要素が同時に必要ですが、私の場合はその両立に難しさを感じることが少なからずあります。『ひばり』の方々はそれぞれ音色に強い意志が含まれているにもかかわらず、絶妙に絡み合っていて、最終的にひとつの壮大な音楽が創りあげられていました。自分が想像していた以上の演奏に圧倒されました」

左より:漆原啓子さん、漆原朝子さん、牛田さん、辻本玲さん、大島亮さん 提供:ジャパン・アーツ

 牛田さんといえばショパンの印象が強いが、今回はショスタコーヴィチの室内楽作品の中で最もよく知られるピアノ五重奏曲に初挑戦。すでに具体的なイメージが出来上がっているようだ。
「ショスタコーヴィチはメッセージ性の強い作品を多く残していますが、今回演奏するピアノ五重奏曲はどちらかといえば交響曲第5番『革命』などに近い『型にはめられた』作品です。指揮の井上道義先生の言葉をお借りするならば『すでに売れている抽象画家なのに街角で人々の肖像画を書いたような』音楽で、いわば『運命の宜告と受容』という典型的なテーマに沿っています。1楽章で運命が宣告され、2楽章ではそれに絶望し、3楽章では抵抗し、4楽章では葬送音楽が現れます。そして最後の5楽章は本当に特別で、冬が過ぎ去った後に吹く春風のような音楽ながら、戦争で野焼きにされて亡くなった人の灰を含んだような苦みがあり、この作曲家の際立った技法を感じられる作品だと思います。作曲時期としては交響曲第6番にも近いので、いくらか田園的な要素も感じられる作品です」

 今年は以前よりも積極的に室内楽に取り組んでいるそうで、「いずれは機会を増やして、ソロと室内楽の活動が半分ずつくらいになるようにしたい」とすでに愛着を感じている様子。
「室内楽には10代のころから憧れていました。多くの作曲家において、その作曲技法の集大成が室内楽作品に映し出されることが多いように感じています。余計なものがそぎ落とされ、最もシンプルなところまで研ぎ澄まされた特別なジャンルだと思います。普段はまだピアノ・ソロの公演が多いですが、室内楽の魅力をより多くの方々に感じてもらえるように、室内楽の愛好者を増やせるような仕事ができたらと思っています」

 コンサートではピアノ五重奏曲以外に、同じくショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 op.110、牛田さんのソロで、現代ロシアを代表する女流作曲家グバイドゥーリナのシャコンヌと、1960年代初頭の二作が演奏される。

【information】
ひばり弦楽四重奏団&牛田智大(ピアノ)

2024.6/26(水)19:00 浜離宮朝日ホール

出演
ひばり弦楽四重奏団:漆原啓子、漆原朝子(以上ヴァイオリン)、大島亮(ヴィオラ)、辻本玲(チェロ)
牛田智大(ピアノ)

曲目
グバイドゥーリナ:シャコンヌ(1962) 《牛田》
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 op.110 《ひばり》
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲 ト短調 op.57 《ひばり&牛田》

問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/