前回のリサイタルから2年、浜離宮朝日ホールに待望の再登場
文:柴田俊幸(フルート/フラウト・トラヴェルソ奏者)
『スター・ウォーズ』のレイは、歴代のジェダイたちの意志を引き継いだ選ばれし者として、勇敢に戦いました。同様に、バンジャマン・アラール(チェンバロ)もまた、古楽界のレジェンドたちの意志を引き継いだ、紛れもない選ばれし者の一人です。
古楽演奏の先駆者グスタフ・レオンハルト(1928~2012)の最後の愛弟子であるパリの名手、エリザベト・ジョワイエの一番弟子として、幼い頃から頭角を現したアラール。レオンハルトとともにラ・プティット・バンド(LPB)を創設したシギスヴァルト・クイケンは、「(LPBの)後継者はバンジャマンだ」と公言していました。文字通り、彼は古楽の草分けたちの源流から流れ出てきたのです。オーケストラの通奏低音奏者として多くの音楽家から信頼され、ソリスト以外の経験を多く積んできたことも忘れてはなりません。
2018年から名門レーベル Harmonia Mundi で、バッハ全集の録音に挑戦中のアラール。CDジャケットの洒落た服装や真摯な眼差しのせいか、知的で生真面目な演奏をしていると思われがちですが、果たしてそうでしょうか? ロックミュージシャンに負けない奇抜な見栄えや、チェンバロをピアノのように爆速弾きする演奏など、クラシック音楽にも「わかりやすさ」が重要視される今日この頃。それに比べて、アラールの演奏は古楽の伝統を完全に吸収した上で新しいものを生み出そうとする、真のフロンティア精神に満ち溢れています。何を隠そう、筆者が今一番共演したいチェンバロ奏者です。
ここ10年でフランスのクラヴサン・スクールのレベルは名実ともに世界の頂点に上り詰めました。チェンバロを勉強する者にとってフランスは必要不可欠な場所であり、多くの若い世代はフランスを勉強の場所として選んでいます。そのトップランナーの一人、バンジャマン・アラールの弾くゴルトベルク変奏曲。レオンハルトから続くチェンバロの伝統に「パリのふりかけ」をかけた演奏、ぜひ堪能してほしいです。
【Information】
バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル
2024.7/3(水)19:00 浜離宮朝日ホール
曲目
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/