令和6年度(第75回)芸術選奨受賞者が3月3日、発表された。昭和25年に創設された同賞は、芸術各分野において優れた業績を挙げた者、またはその業績によってそれぞれの部門に新生面を開いた者を文化庁が選奨するもの。大臣賞には120万円、新人賞には80万円の賞金が贈られる。
音楽部門の大臣賞では、指揮者の阪哲朗が受賞した。阪は長年にわたりドイツの歌劇場で活躍。2023年度からはびわ湖ホール芸術監督に就任、初のプロデュースオペラとなったR.シュトラウス作曲《ばらの騎士》では、オーケストラを室内楽のように響かせ、作品のドラマ性を際立たせた。山形交響楽団とのヴェルディ《椿姫》公演や、京都市交響楽団の定期演奏会(ブラームスの「ハンガリー舞曲集」抜粋とドヴォルザーク「チェコ組曲」および交響曲第8番)においてもその音楽性は発揮され、聴衆の心をつかんだ。

音楽部門の新人賞には、ピアニストの北村朋幹と都山流尺八演奏家の長谷川将山が選ばれた。北村は繊細で緻密な表現を得意とし、そのピアニズムがリスト「巡礼の年」全曲を収めたCDで高く評価された。同アルバムにはグリーグやノーノの作品も収録され、それらとリストとの関連を論じた自身の解説も注目された。また、近年はフォルテピアノ演奏にも取り組み、新たな表現の可能性を切り開いている。長谷川は東京オペラシティのシリーズ「B→C(ビートゥーシー)」で「都山流における名技性」と「尺八の器楽的可能性」を軸とする二部構成のリサイタルを開催し、高い企画力と卓越した技術を発揮。伝統と革新を両立させる演奏により、尺八の可能性を大きく広げたと評価された。


指揮者の広上淳一は、芸術振興部門の大臣賞を受賞した。広上はオーケストラ・アンサンブル金沢のアーティスティック・リーダーとして、能登半島地震の被災地で音楽を通じた復興支援活動を展開。避難所や病院、小学校などを訪れ、演奏を届ける取り組みを震災後直ちに開始した。今後も長期的に継続する意向を示しており、芸術文化と地域社会の共生を促す活動となっている。

評論部門では、慶應義塾大学法学部教授で音楽評論家の片山杜秀が大臣賞を受賞。授賞対象となった『大楽必易―わたくしの伊福部昭伝―』は、作曲家本人との交流を基にした評伝で、伊福部の音楽的特徴を浮き彫りにするだけでなく、社会情勢との関連も掘り下げた内容となっている。特に、大正初期に生まれた伊福部が故郷・北海道での原体験を基に創作を続けた点を描き出し、近代の価値観を再考させる示唆に富む一書となった。

文化庁 令和6年度(第75回)芸術選奨
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