酒井健治(作曲)

二人の作曲家の色彩の交錯、そしてワーグナーとの融合

©Maxime Lenik

 神奈川県民ホール小ホールでの「C × C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅」のvol.6「酒井健治 × クロード・ドビュッシー」が、5月に開催される。酒井は、パリ留学以来17年間の欧州生活を経て、2018年から日本を拠点に活躍中の作曲家。内外で数々の作品が演奏されている。

 彼にとってドビュッシーは「留学前から近しい存在」だ。

 「多くを受け取り、感性の拠り所となってきた作曲家。“色彩”にインスピレーションをかき立てられますが、よく言われる和声だけでなく、“リズム”に色彩的要素があると感じています」

 今回もその点をコンセプトに構成され、酒井とドビュッシーの作品が交替していく。

 「私の『青と白で』(2023年に書かれた未発表曲)を基軸にした“色彩”がテーマのプログラム。自作とドビュッシー作品を対峙させる面もありつつ、どちらの曲を聴いたのか分からなくなるような印象を持たせたいと考えました」

ワーグナーの影響を感じる

 ドビュッシーの選曲にも明確な意図がある。

 「『牧神の午後への前奏曲』はぜひ入れたいと思いました。音楽史上の転換点となった重要作であると同時に、和声とモティーフの変容は、ワーグナーの手法にフランス音楽の伝統をミックスさせたもの。ワグネリアンから脱却していったドビュッシーが、当初どこに共感していたのか? 二人の融合も今回のテーマの一つです。さらに『ピアノのための練習曲』と『白と黒で』は、後期の作品も取り上げて、ドビュッシーの進化を聴いてもらうと同時に、私の『練習曲集』『青と白で』との対比と統一を企図しています」

 「牧神〜」と「練習曲」には特に大事な要素がある。

 「『牧神〜』は、2014年に編曲された1管編成・弦楽器各1本のアンサンブル版での演奏。これは、有名なシェーンベルク版で欠けていたハープが入る、本質をついた編曲版で、日本初演になります。また『練習曲』中の〈対比的な響きのための〉は、メロディを解体して和声と音域の微妙な違いで音楽を表現した、技法的に重要な作品です」

 酒井の作品も極めて興味深い。

 「『青のリトルネッロ』は管楽器の和声の美しさを前面に出した短い三重奏曲。『ピアノのための練習曲集』は、ショパンやドビュッシー等の練習曲でピアノの勉強をしてきた私が、自分でもテクニックを開発するような曲をと考えて、ライフワーク的に書き続けている作品です。今回は完成した9曲が演奏されますが、最初の6曲はテクニカルで、後の3曲は過去の作曲家の作品やモティーフをふんだんに使っています。『青と白で』は木管五重奏とピアノによる約11分の曲。スペインのサン・セバスチャンで見た“空と海の青”の風景に基づく音楽で、視覚情報を脳内で音に変えるという意味ではドビュッシーに通じています」

ワーグナー、ドビュッシーをマリアージュ!?

 そしてさらに新作が加わる。これが実に面白そうだ。

 「木管五重奏とハープ、ピアノ、弦5部による『ジークフリートのための3つのスケッチ』と題した作品。ワーグナーとドビュッシーを混ぜ合わせたらどうなるか? を意図した曲で、第1楽章に前者の『ジークフリート牧歌』、第2楽章に後者の『海』のモティーフが登場し、第3楽章で両者が融合します」

酒井の創造を精鋭たちが描く

 なお出演者は、ホルンの福川伸陽など「東京六人組」のメンバーをはじめ、第一線の実力者が揃い、「牧神〜」と新作は酒井が教える京都芸大在学中の森脇涼が指揮する。彼は酒井いわく「遠くないうちに間違いなく売れる、素晴らしい指揮者」との由。

 「過去のモティーフを異化することを考えてきたこれまでの一つの集大成」とも語るこの公演。話を聞くと「ぜひ聴きたい」との思いが増す一方だ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年4月号より)

C × C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅 vol.6
酒井健治 × クロード・ドビュッシー
2024.5/11(土)15:00 神奈川県民ホール(小)
問:チケットかながわ0570-015-415 
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/