上村文乃と杉山洋一が齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞

 2月6日、第22回 齋藤秀雄メモリアル基金賞の受賞者が発表された。受賞したのは上村文乃(チェロ部門)、杉山洋一(指揮部門)。発表と同日、都内で行われた贈賞式には、受賞者2名のほか選考委員の堤剛(チェリスト)、沼尻竜典(指揮者)、吉田純子(朝日新聞 編集委員)らが出席した。

左より:上村文乃、杉山洋一

 この賞は、チェリスト・指揮者・教育者の故・齋藤秀雄にちなみ、2002年に財団法人ソニー音楽芸術振興会(現・公益財団法人ソニー音楽財団)によって創設された。小澤征爾が名誉顧問を務め、音楽芸術文化の発展に貢献し今後さらなる活躍が期待される若手チェリストと指揮者を顕彰する。

 上村はモダンチェロの演奏に加え、ピリオド楽器を用いた歴史的奏法にも取り組み、双方で第一線の活躍をみせるチェリスト。ハンブルク音楽演劇大学、スコラカントゥルムバーゼルなど欧州で7年間にわたり研鑽を積み、日本音楽コンクール(第80回・第2位)をはじめ数多くのコンクールで入賞。現在はバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のメンバーとして活動するほか、国内外の名門オーケストラや世界的な演奏家との共演を重ねている。

 堤は今回の受賞について、「ここまでの道のりは決して平坦ではなかったと推察しますが、数年前のHakuju Hallでのリサイタルでは、何か吹っ切れたような、音楽をする“本当の自由さ”を得た演奏を聴かせてくださって、大変嬉しく思いました。バロックチェロの領域でも、BCJで躍動感あふれる、音を出す前からワクワクさせてくれる演奏を披露していらっしゃいます。今後も新しい世界を切り拓いてくださることを期待しています」と言葉を贈った。

堤剛 提供:ソニー音楽財団

 一方、上村は今日に至るまでの自身の演奏活動について、「モダン、バロックという2台のチェロを弾き分けることについては、最初は迷いもありました。そんな中、堤先生から笑顔で『過去を変えることはできないし、変える必要もないんじゃない?』というお言葉をいただいたことを通して、最終的に『自身がやりたいのは単にチェロを演奏する、ということではなく、“生きた芸術”を表現して多くの人と分かち合うことなんだ』と気づくことができました。それ以来、現代音楽の演奏、リサイタルの演出、古楽の演奏会での弾き振りに指揮と、より活動の幅を広げるようになりました」と振り返った。

上村文乃 提供:ソニー音楽財団

 杉山は現在ミラノ在住。「サントリーホール サマーフェスティバル」や東京オペラシティの「コンポージアム」など、日本を代表する現代音楽のイベントで指揮を務め、N響、都響、アレーナ・ディ・ヴェローナ管など日欧各地のオーケストラとも共演を重ねている。さらに作曲家としても、佐治敬三賞(第13回)、一柳慧コンテンポラリー賞(第2回)などの受賞歴をもち、国内外のアーティストから多くの委嘱を受ける。オーガナイザー、プロデューサーとしての実績も豊富で、多彩な音楽活動を展開している。

 吉田は受賞の理由について、「指揮者・作曲家として、杉山さんはご自身を強く出すというより、むしろ背景に入り、世代の違う演奏家同士、さらには音楽家と聴衆、と様々な人の縦・横の糸をつないでいらっしゃいます。これは今の時代の音楽的なリーダーに求められることだと考えています」とコメント。

吉田純子

 これに対して、杉山は「コロナ禍や世界情勢の激動などを経て、ますます音楽が希求される中で、自身が指揮者・作曲家としてできるのは、人と人とをつなぐ役目を果たすことだと考えています。そうして生まれたつながりによって、一種の化学反応が起き、音楽をより一層立ち昇らせていくのだと思うのです。そういった意味で、まず『人間としてどう生きていくべきか』ということを教えてくださった先生方の助けなしでここまで至ることはできなかったですし、教えの中には齋藤先生の姿勢が深く根付いていたと感じています」と音楽家としての自身の理念を語った。

杉山洋一 提供:ソニー音楽財団

 式の最後には、上村がカサドの無伴奏チェロ組曲より第3楽章を披露。丁寧に、かつ情熱をもって音を紡いでいく演奏で、会場は温かい拍手につつまれた。

提供:ソニー音楽財団

齋藤秀雄メモリアル基金賞
https://www.smf.or.jp/saitohideo/