【対談】阪哲朗(山形交響楽団 常任指揮者)× 西濱秀樹(山形交響楽協会 専務理事)

山響のお客さまはアツい!
音楽を感じて反応することが、体に染み込んでいる

 阪哲朗&山形交響楽団の快進撃が続いている。オペラから、モーツァルト、ベートーヴェン、そして新作に至るまで。最近では、オーケストラピットに入って演奏したJ.シュトラウスⅡ世の《こうもり》も大好評を博した。筆者もこのコンビのR.シュトラウスの《ばらの騎士》抜粋(2022年4月17日、創立50周年記念シリーズ第300回記念定期演奏会)やモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」(23年9月10日第311回定期演奏会)を聴きに彼らの本拠地である山形テルサホールまで足を運んだ。これまでの日本のオーケストラにはない、彼らの個性溢れる演奏の秘密を、阪哲朗と西濱秀樹専務理事にきいた。

阪 哲朗

—— 阪さんが山形交響楽団の常任指揮者になられて、山響はどう変わったと思いますか?

西濱 表現に滑らかさが加わったと思います。音が流線形といいますか、それでいて、メリハリがあり、シャープさもある。明確な呼吸が出せるオーケストラになってきたと思います。

 例えば、子どもたちがここで遊んでいるとすると、「こうすればこの遊び、もっと面白くなるよ」とそこに自分から突っ込んでいって、ひょっとすると枠をはみ出てしまってその子どもたちの親からは怒られるかもしれない(笑)、そういう音楽作りをしています。この1月の《椿姫》の再演(2017年以来)を応用編だと言ったのも、そういう枠を超えて、遊びをどうふくらませるかということを考えているからなのです。

西濱 日本のオーケストラは、リハーサルと本番で指揮者が違うことをするのを嫌う傾向があります。本番でリハーサルと同じように振ってくれないと何のためにリハーサルをしたんだという意見が出てきます。

 いやいや、本番で音楽のコントラストが、よりはっきりする、高揚する、そうしたことに対応するためにリハーサルがあります。野球でも、試合では決して練習と同じ角度で球が飛んできたりはしませんが、千本ノックとかするわけですよね。考えなくても動けるように。リハーサルも同じです。

—— かつて山響は、モーツァルトの交響曲の全曲録音を行い、そのCDが絶賛されました。今日は、阪さんの指揮でモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」を聴きましたが、山響にとってモーツァルトは大切なレパートリーなのだとあらためて実感しました。

 だからこそ、モーツァルトをより最重要なレパートリーにするべく、その中身の面白さを追求していきたいと思っています。

西濱 阪さんとやり始めて、シンフォニーの原点がオペラであるということがより感じられるようになりました。それまでシンフォニーとして取り組んでいたものに、阪さんが「そこはオペラだよ」とおっしゃったりして。2021年に、山響の東京公演を飯森さん(現桂冠指揮者)が振って、大阪公演を阪さんが振って、2日続けてモーツァルト(違う交響曲でしたが)を異なる指揮者で演奏したのですが、まったく音楽の表情が違うわけです。そのとき、山響はとても柔軟性のあるオーケストラだなと思いました。

西濱秀樹

—— 今日は、山形のお客さまの熱心な反応にも感心しました。

西濱 山響のお客さまには、長年にわたって作り上げてきた伝統があると思います。山形のお客さまには、演奏者の出すものを感じ取って反応するというのが体に染みついているのを感じます。

 熱いですよね。表に出る出ないは関係なく。オーケストラのある街だからこそのお客さまの伝統があると思います。

 2024年度、阪&山響は、モーツァルトの「戴冠式ミサ」、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」、プッチーニの歌劇《トスカ》(演奏会形式)など、声楽・合唱付きの大作に取り組む。今後も彼らのチャレンジから目が離せない。
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2024年2月号より)

演奏会形式オペラシリーズ Vol.2 《椿姫》
2024.1/28(日)15:00 やまぎん県民ホール 
出演/

阪哲朗(指揮)、森谷真理(ヴィオレッタ)、宮里直樹(アルフレード)、大西宇宙(ジェルモン) 他

庄内定期演奏会 第28回酒田公演
2024.3/17(日)15:00 酒田市民会館 希望ホール 
出演/

阪哲朗(指揮)、林美智子(メゾソプラノ)、宮里直樹(テノール)
曲目/

ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」(1925年版) 
ビゼー:歌劇《カルメン》(ハイライト・ガラ)
問:山響チケットサービス023-616-6607 
https://www.yamakyo.or.jp