井上道義(指揮) 大阪フィルハーモニー交響楽団

二度と体験できない極め付きのショスタコーヴィチ

井上道義 (c)飯島隆

 2024年末での指揮活動の引退を発表して以来、井上道義が振る公演には“凄み”が横溢している。集中力漲るコラボから生み出される音楽は緊密かつ濃密。彼がシェフを務めたゆかりの深い楽団ならば、その度合いはより強くなるに違いない。

 そこで注目されるのが大阪フィルハーモニー交響楽団の2月定期。井上が2014~17年に首席指揮者を務めて一時代を築いた楽団の定期演奏会における最後の共演だ。メインはショスタコーヴィチの交響曲第13番「バビ・ヤール」。第二次大戦下のウクライナで起きた、ナチスによるユダヤ人の大量虐殺をテーマにした迫真的な傑作である。ショスタコーヴィチはむろん井上の代名詞。特に大阪フィルでは、第2、3、4、11、12番といったレアな交響曲を多く取り上げているので、阿吽のコンビネーションが期待される。また13番は声楽も肝だが、バス独唱をロシア出身の世界的歌手アレクセイ・ティホミーロフが務めるのも嬉しい。ムーティ&シカゴ響の本作でも賞賛を博した深い歌声は極めて心強いし、合唱の国スウェーデンのオルフェイ・ドレンガーの圧倒的な男声合唱も名演を後押しする。ともかく本作は上演機会が少ないので、この一期一会の公演は聴き逃せない。

 加えて、J.シュトラウスII世「クラップフェンの森で」(元々は初演地ロシアの森に因む曲)、ショスタコーヴィチの「ステージ・オーケストラのための組曲」(曲中のワルツ第2番はソ連のプロパガンダ映画で使われた)のカップリングも意味深長。現況下で聴くべき意義深いプログラムを、渾身の演奏で堪能したい。
文:柴田克彦

第575回 定期演奏会
2/9(金)19:00、2/10(土)15:00 大阪/フェスティバルホール
問:大阪フィル・チケットセンター06-6656-4890
https://www.osaka-phil.com