響ホールリサイタルシリーズ
樫本大進(ヴァイオリン)& エリック・ル・サージュ(ピアノ)

最高の響きで味わう、究極のドイツ・ロマン派デュオ

左:樫本大進 (c)Keita Osada(Ossa Mondo A&D) 右:エリック・ル・サージュ

 今年度の「響ホール リサイタルシリーズ」の最後を飾るのは、樫本大進とエリック・ル・サージュのデュオ。ベルリン・フィルの第1コンサートマスターを10年以上務めながら、ソリストとして第一線で活躍を続ける世界的ヴァイオリニストと、高い技量やセンスを誇るフランス屈指の名ピアニストが、ブラームス&シューマンを軸としたプログラムを披露する。

 およそ1年前彼らは、「シューマン&ブラームス 全曲ヴァイオリン・ソナタ・チクルス vol.1」を日本各地で行い、「約20年間、ほぼ毎年共演している」(樫本)がゆえの呼吸の合った名演を展開した。豊潤な音色で端正かつ表情豊かなヴァイオリンを奏でる樫本と、フランス人ながら、シューマン国際コンクールで第1位、シューマンのピアノ曲・室内楽作品全集の録音でドイツ・レコード批評家賞を獲得するなど、ドイツ・ロマン派のスペシャリストとして名高いル・サージュが奏でるデュオは、芳醇で深みのある“大人の音楽”。そのコンビネーションを味わうだけでも足を運ぶ価値がある。

 前記チクルスの第2弾にあたる今回だが、初体験でも(前回の公演に触れていなくても)問題なく楽しめる内容となっている。まず最後に置かれたシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番は、同作曲家の当分野の断然の代表作。明快かつ濃密な音楽は、エネルギーと詩情に溢れている。また、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」は、歌曲の旋律を用いた、メロディアスで抒情的な人気作。さらには、シューマンの妻クララのチャーミングな「3つのロマンス」と、シューマンの弟子ディートリッヒ、ブラームス、シューマンが共同で作曲し、彼らの友人でもある伝説のヴァイオリニスト、ヨアヒムにプレゼントした「F.A.E.ソナタ」が加わる。すなわち、当時の大家シューマン、その妻クララ、シューマンに恩を受け、クララを思慕したブラームスの、ドイツ音楽史を彩る交友関係が1公演にして明示される意義深いプログラムが組まれている。しかも3人の代表作と生演奏の稀な「F.A.E.ソナタ」を1公演で満喫できる、得難い機会ともなる。

 本公演のポイントの1つが、今回このデュオが中四国より西で行う唯一のリサイタルであること。つまり地元のみならず、西日本一円から注視すべきコンサートだ。そして何より、開館30周年を迎えた響ホールは、残響時間1.8秒という抜群の音響を誇る720席の音楽専門ホールであり、これほどの環境で世界的デュオを堪能できるチャンスも滅多にない。ここはぜひ、その素晴らしき響きとロマンティックな楽の音に酔いしれたい。

文:柴田克彦

【Information】
響ホールリサイタルシリーズ
樫本大進(ヴァイオリン)& エリック・ル・サージュ(ピアノ)

2024.1/27(土)15:00 北九州市立響ホール

●曲目
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 op.78 「雨の歌」
ブラームス、ディートリッヒ、シューマン:F.A.E.ソナタ
クララ・シューマン:3つのロマンス op.22
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番 op.121
●料金
全席指定
S席 : 5,000円(前売)
A席 : 4,000円(前売)
25歳以下(A席) : 2,000円(前売/入場時要証明)
*未就学児入場不可
*当日各500円増

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp/