響ホールの音響設計を担当した専門家たちによる特別座談会 Vol.3

INTERVIEW 橘秀樹(東京大学生産技術研究所名誉教授) & 豊田泰久 & 石渡智秋(以上永田音響設計)

 1993年、北九州市制30周年を記念してオープンした北九州市立響ホールは、今年、開館30周年を迎えた。ガラスや耐火レンガ、鉄などが使われたユニークな内装と、⾳響設計により実現した明瞭で豊かな響きが特長の同ホール。北九州市出身でN響特別コンサートマスターの篠崎史紀氏も「響ホールはどの席でも良い音で聴ける。ホール自体が楽器の役割をはたしていて、このように素晴らしい響きのホールは世界でも数えるほどしかない」と語るなど、公演に訪れ、その響きを絶賛するアーティストも後を絶たないという。
 そこで今回、響ホールの音響設計に携わった専門家3名によるオンライン座談会を実施。参加者は、音響設計の全体監修・基本設計を務めた橘秀樹さん(東京大学生産技術研究所名誉教授)。そして橘さんの基本設計をもとに実施設計を行った永田音響設計から豊田泰久さんと石渡智秋さん。
 最終回(第3回)は、バックステージやロビー、そしてホールの運営面について。

北九州市立響ホール

取材・文:本田裕暉

――響ホールはロビーも美しく、また中庭からの光が差し込むグリーンルームや控室など、バックステージも大変充実していますね。

橘秀樹

 じつは、このホールのロビーはけっこう響きがよいのです。市民参加型のコンサートなどに向いているのではないかと思います。また、バックヤードの充実は、お客様からは直接関係のない話ですけれど、出演者にとっては非常に大事な点です。バックヤードはスペースが限られる場合が多く、内装も粗末なところが多いのですが、このホールはかなり力を入れています。

7月に開催された「まるっとEnjoy! 響ホールで夏休みスペシャル」でのロビーコンサートの様子

豊田 出演者が快適に、気持ちよく過ごせるということは、よい演奏にも繋がります。演奏は「メンタル」ですから、気持ちよく演奏できれば当然結果もよくなることが期待できますよね。これは重要なことだと思います。

――北九州国際音楽祭をはじめ、響ホールでは様々な催しが行われています。運営面についての印象はいかがですか?

 本格的なコンサートもかなり行われているということで、ホールを上手く運用されているのではないかと思います。ホールというのは「金食い虫」でして、単独で利益をあげるなどということはとてもできないので、どのホールも持ち出しでやっているわけです。文化を創っていこう、ということですね。

石渡智秋

石渡 7月に開催された開館30周年記念ガラ・コンサートにもたくさんのお客様がいらしていて、篠崎史紀さんのお話に対するお客様の反応もすごくいいんですよね。きっと聴衆の皆さんも響ホールでの演奏会に通っていらっしゃって、こういう言い方をするのは失礼ですけれども、聴衆とホールとが一緒に育ってきたのだろうなと感じました。

豊田 私は今、広島県福山市のふくやま芸術文化ホールという、いわゆる公共文化ホール(多目的ホール)の管理運営を担当させていただいているのですが、福山と比較して北九州のいいなと思うところは、最初から「音楽専用」と謳われているホールがあるところです。多目的ホールの場合は、演奏会に限らず成人式などの式典や大会のようなものもたくさん入ります。すると、運営する側も「稼働率が高ければいいでしょう」となってしまうのです。その点、響ホールは音楽専用ホールと最初から謳ってあるので、非常にうまく機能していると思いますね。クラシックを中心とした音楽専用ホールとして貸館で運営を成り立たせるのは難しく、それなりの数の公演を自主事業としてやっていかなくてはなりません。プロデュースされている方は苦労されていることもあるだろうと思いますが、我々から見ると大変よくやっていらっしゃる。それから、マロさんこと篠崎史紀さんのような、地元北九州出身の世界に誇れるアーティストが定期的にいろんなことをやってくださっているのも理想的ですね。

豊田泰久

――今年で36回目の開催となる北九州国際音楽祭でのマロさんを中心とした企画「マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ」はこの秋に10回目を迎えます。こうした取り組みが脈々と続いていく「文化の拠点」となっているところも、響ホールの素晴らしい点ですね! 皆様、大変貴重なお話をありがとうございました。

Profile

橘秀樹
東京大学工学系大学院博士課程(建築学専門課程)修了。東京大学名誉教授。
東京大学生産技術研究所で建築音響や騒音・振動制御の研究に取り組む。
北九州市立響ホールのほか、横浜みなとみらいホール等日本各地のコンサートホールの音響設計・コンサルタントを務める。

豊田泰久
広島大学附属福山高校卒後、九州芸術工科大学の音響設計学科に入学し、コンサートホールの音響設計に関する技術を学んだ。1977年大学卒業後、(株)永田音響設計に入社し今日に至る。ロサンゼルス事務所とパリ事務所の代表を務めた後、現在はエグゼクティブ・アドヴァイザー。

石渡智秋
株式会社永田音響設計 プロジェクトチーフ、法政大学大学院兼任講師。
芝浦工業大学大学院修了。修士論文研究を東京大学生産技術研究所 橘秀樹教授のもとで行う。北九州市立響ホールをはじめ、京都コンサートホール、ミューザ川崎シンフォニーホール、台中国家歌劇院(台湾)等のプロジェクトを担当。

【Information】
2023北九州国際音楽祭「新時代へ―」
マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ

2023.11/23(木・祝)15:00 北九州市立響ホール
(14:15~ プレ・ステージコンサート)
●出演
篠崎史紀(コンサートマスター) 他

●曲目
モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183(173dB)
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D.485
メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 op.56「スコットランド」

●料金
全席指定
S席:5,000円
A席:3,500円(完売)
U-25席(A席):2,000円(完売)
※当日各500円増

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp