2023北九州国際音楽祭
アレクサンドル・カントロフ(ピアノ) ズラトミール・ファン(チェロ)

世界的登竜門を制したふたつの才能が起こす化学反応

左:アレクサンドル・カントロフ (c)Sasha Gusov 右:ズラトミール・ファン (c)Fred Conrad

 2019年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝に輝いた2人の演奏家が、北九州市で待望の共演を果たす。
 22歳だったアレクサンドル・カントロフは、このコンクールでフランス人ピアニストとしての初優勝を飾った。さらにコンクールの歴史でこれまで3度しか与えられていないグランプリも獲得している。
 以降、二度に渡って来日して公演を行い、たちまち聴衆を魅了した。オーケストラかと見まごうばかりの豊かなハーモニーに、ほとばしる色彩、そして大ホールを満たす輝かしい響き。華麗なピアニズムを武器にしつつも、それを誇示するようなプログラムを組まない。名うての音楽一家に生まれたこともあろう、じつに成熟したスタンスで音楽に臨んでいる。

 一方、チェロ部門における史上最年少での優勝者は、当時20歳のズラトミール・ファンだった。アメリカ人としては40年ぶりの快挙でもあった。
 ブルガリア系と中国系の両親のもとに生まれた彼は、華々しいテクニックとしなやかな歌謡性で、数々のコンクールで輝かしい成績を残してきた。レパートリーも広く、カントロフ同様、若いながらも着実にキャリアを築きつつある次世代を担う1人だ。

 この2人が用意したプログラムも、じつに練られている。前半は、北欧の作曲家による2作品。悲嘆とそれから立ち直るかのような選曲だ。
 一曲目は、シベリウスの「マリンコニア」。メランコリックを意味するこの小品は、娘を亡くした直後の作曲家の心情が投影されているかのように、悲しみに覆い尽くされる。続くのは、グリーグのチェロ・ソナタ。この曲も憂愁を帯びた主題で始まるものの、それを慰撫するような抒情を経て、情熱へと昇華されていく。よく歌うチェロと、スケール感あるピアノが要求される作品だけに、このコンビには適任。それぞれの持ち味を生かした演奏になるだろう。

 後半は、ドイツ・ロマン派の2作品。すでに楽劇の作曲家として名を成していたワーグナーの瀟洒なピアノ独奏曲「アルバムの綴り」が、ポッパーの編曲によるチェロとピアノ版で演奏される。その憧れに満ちた晴朗なロマン性は、続くブラームスのチェロ・ソナタ第2番へと引き継がれる。しっかりした構成感の上に、秘められるような情感も込められ、明朗かつ力強く音楽は進行していく。緊張と緩和のバランスも見事で、すべてにおいて熟練の手によるソナタだ。若い2人の演奏家にとっては、彼らの将来までも見えてくるような、まさに真価を発揮する作品。期待するしかない。

文:鈴木淳史

【Information】
2023北九州国際音楽祭「新時代へ―」
2023.10/14(土)~12/10(日)

北九州市立響ホール、北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他

アレクサンドル・カントロフ(ピアノ) ズラトミール・ファン(チェロ)
2023.12/10(日)15:00 北九州市立響ホール
●曲目
シベリウス:マリンコニア op. 20
グリーグ:チェロ・ソナタ イ短調 op. 36
ワーグナー(D.ポッパー編):アルバムの綴り 変ホ長調(ロマンス)
ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 op.99

●料金
全席指定
S席:5,000円
A席:3,500円
U-25席(A席):2,000円
※当日各500円増

音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp