横浜みなとみらいホール「プロデューサー in レジデンス」第2代プロデューサーの反田恭平がオルガン演奏に挑戦する「オルガン道場」。10月16日、ホールオルガニスト近藤岳による2回目のレッスンが同ホールで行われた。「オルガン道場」は反田がプロデュースする企画で、同ホールのシンボルであるパイプオルガン(愛称:ルーシー)の魅力を発信し、この楽器にさらに親しみを持ってもらうべく、自らがオルガン演奏に挑戦するもの。
7月の第1回を経て、約3ヵ月ぶりのレッスンとなった。
前回は楽器に関するレクチャーからスタートしたが、今回はいきなり実践。バッハ「トッカータとフーガ 二短調 BWV565」を題材に足鍵盤の練習から行われた。ピアノの鍵盤を押さえる際、指のどの部分を使うかといった技術があるように、足鍵盤にもつま先やかかとなど、押さえる足の場所は様々な選択肢があるという。
演奏姿勢を一定に保つため「足鍵盤を演奏する時はなるべく足を見ず、足に目がついていて、見るように触って」という近藤のアドバイスに対して、反田は即座に対応。近藤が「さすが」とうなる場面も。
その他、音の長さを変えることでフレーズを表現する、打鍵では強弱がつけられないオルガンならではのテクニックなど、指導内容は多岐にわたった。最後に足鍵盤だけで演奏するエチュードに取り組み第2回のレッスンは終了。その後、反田と近藤に話を聞いた。
INTERVIEW
反田恭平 × 近藤岳
――レッスン後、反田さんは前回のレッスンから今日までオルガンに触れられていないと聞いて驚きました。
反田 オルガンに限らず、音楽家は楽器に触れる時間がなくても自分で練習方法を見つけていくことがとても大事。この世界はそういう人じゃないと生き残っていけない厳しい面もあると思います。一方でピカソが「優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」と言っていたように、先生や他人の技術をみて学習する、それは音楽でも一緒だと思っています。
――弾いていない間はどんな練習をされるのですか?
反田 楽器に触れていない時間は聴くことしかできません。例えば次に指揮する作品も、今日車で来る移動中にずっと聴いて、そんな経験が断片的に重なって音楽を覚えていきます。あとはイメージでしょうか。自分が出したい音をどんな音色で弾くのか。この音が欲しいから、そのためにどういう動きをしなければいけなくて、どういう思考をもたないといけないのか。そのようなイメージ力はとても大事だと思います。
――近藤さんは生徒としての反田さんをどう見ていますか?
近藤 「足鍵盤を見ずに弾く」といってもすぐにできる人はいません。反田さんは鍵盤を押さえる前に足でさわって、その感触でどの鍵盤かを確認することがすぐにできました。すごい進歩だと思います。普通はこれほど弾けません。足の筋肉の使い方まで感じられていたようなので、次に繋がりそうな気がして嬉しいです。
反田 先生の指導がわかりやすかったです。すごく具体的に、イメージしやすい言葉で伝えてくださって。「足鍵盤を見ずに弾く」は、ピアノにも手で似たようなニュアンスがあるので、それを足でやればいいのかと。でも、手と足では経験の差が10年以上あるので難しいです。
近藤 足を使う時に左手が連動してしまう方が多いのですが、反田さんはそれが限りなく少ない。足と手、それぞれのパートを最初から分離して考えられています。
反田 プロコフィエフやストラヴィンスキーを弾くとき、右脳と左脳を絶対分けないといけない。それと遠くない感覚だと思います。
オルガンの素晴らしさを伝えたい
――最後に、反田さんが“ルーシー”を弾くということで、多くの方から注目を集めています。今回はじめて興味を持った方に一言お願いします。
反田 日本と海外の決定的な違いは、宗教の文化だと思います。ウィーンではほぼ毎日、どこかでオルガンが演奏されています。日本には良いオルガンはあっても、ヨーロッパの教会のように自由に出入りできて、演奏されているオルガンに合わせて歌いたい人は歌う、そういう文化はないと思います。
文化を新しく作ることができればいいなと思う反面、お客さんには少しでもいいからオルガンの公演を聴きに来てほしいと思っています。僕が今回弾くことによって、初めてオルガンを聴く方もいると思います。そんな方に「オルガンはこんなに素敵なんだよ」と伝えたい。これを機会に、オルガンの素晴らしさ、深み、そしてピアノよりも長い、楽器の歴史も感じてほしいです。
取材協力:横浜みなとみらいホール
取材・文・写真:編集部
横浜みなとみらいホール25周年音楽祭
2024.3/20(水・祝)~3/24(日)横浜みなとみらいホール
問:横浜みなとみらいホール
https://yokohama-minatomiraihall.jp