ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2023 に出演 アブデル・ラーマン・エル=バシャからのメッセージ

 4年ぶりの開催となるラ・フォル・ジュルネ TOKYO。今回のテーマは「Beethoven ――ベートーヴェン」。音楽祭を心待ちにしていたのはわれわれファンだけではなくアーティストも同様。そこで出演者の皆さまからいただいたメッセージをご紹介します。プログラムについて、それぞれのベートーヴェン像など、作曲家への、そして音楽祭への熱い想いがこもっています。

  • Vol.1:福間洸太朗(ピアノ)
  • Vol.2:アンヌ・ケフェレック(ピアノ)
  • Vol.3:エリプソス四重奏団(サックス四重奏)
  • Vol.4:アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
  • Vol.5:ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ(ピアノ)
  • Vol.4 アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
    LFJ原点への回帰のとき

    ©Carole Bellaiche

    ──LFJで演奏するプログラムについて
     ベートーヴェンのソナタを弾きます。「田園」「ワルトシュタイン」「熱情」そして「テンペスト」、いずれも彼の代表作に数えられる大曲です。ピアノ協奏曲第5番「皇帝」も演奏します。

    ──プログラムを選んだのはルネ・マルタンですか?
     そうです。彼は私がベートーヴェンの全ソナタを弾けると知っていますからね。二つ返事で引き受けました!

    あなたにとってベートーヴェンとは?
     ベートーヴェンの音楽には多様な“力”があります。純粋に音楽的な“力”もそこに含まれます。美しい旋律や和声によって、均整のとれた形式によって、室内楽や管弦楽の場合には音色の選択によって…ベートーヴェンの音楽は、音楽家や音楽愛好家の耳を“充足”させてくれるのです。ですから、彼の音楽を無視することなどできません。

     彼の音楽には“人間的”な側面もあります。そこには人類の最も気高い感情が見出されます。博愛の精神も含まれます。個人的な愛というよりも、普遍的な愛です。
     彼の音楽には倫理観や正義も見出されます。彼の音楽は時に暴力的に聞こえますが、それは“精神的”な暴力性だと私は思います。つまりそれは、自己への厳しさ、自分自身への要求の高さ、他者へ関心を向けよとの要求、虐げられた人々の権利を守ろうとする毅然とした態度に通じる暴力性だと私は思います。彼はフランス革命の時代の人ですからね。

     今お話ししたすべての要素の他に、彼の音楽には実存的な意識も見受けられます。彼は社会的な問題に関心を寄せ、「ミサ・ソレムニス」で平和を希求しましたが、その彼方で彼の音楽は、世界や実存と個人的な関係を結んでもいます。それは、彼の音楽が私たちに差し出す瞑想にも似た教訓だと思います。最晩年の曲にそれが特に表れています。

     だからこそベートーヴェンは、偉大な音楽家であるだけでなく、いわば精神的な“案内役”でもあると思います。

    ──LFJの好きなところを教えてください
     LFJには創設当時から出演しています。毎年一人の作曲家をテーマに開催されていましたが、その後にテーマの幅は広がり、複数の作曲様式を扱う詩的なテーマになりました。

     今回、一人の作曲家にテーマが絞られたのは原点への回帰と言えます。これは重要な回帰です。ベートーヴェンのような“巨星”の音楽は、無限に探求することができますから。彼の音楽がもつ多くの“側面”や可能性をたくさんの演奏家が表現できるチャンスですし、声楽、弦楽、オーケストラなど様々な楽器が関わります。もちろんピアノも!しかも、普段滅多に演奏されない曲をいくつも聴くことができます。それがLFJの魅力です。知られざる楽曲に光が当てられます。若い聴衆にも開かれていますし、好奇心あふれるクラシック“初心者”の方々も歓迎されます。チケット料金も手頃で、クラシック音楽につきまとう“エリート意識”とも無縁の音楽祭です。それがLFJの強みです。

    ──コロナ禍を経て、音楽への向き合い方や気持ちに変化はありましたか?
     新型コロナウイルスの流行で、人生は“不確か”だと悟りました。一年後の予定をあれこれ決めても、私たちよりも強い何らかの力のせいで予定は狂うかもしれません。ある意味、あの期間に小さな“死”が訪れ、演奏家も悲しみに暮れました。

     私たちにとってコンサートは、生計を立てるためだけでなく、“演奏家であり続けるため”にも必要です。私たち演奏家はコンサートを通して自分たちの表現や霊感を育むことができます。だからこそ演奏家にとって、パンデミックは悲惨な出来事でした。

     聴衆の方々も、文化に触れる機会を失いお辛かったと思います。聴衆の方々はその辛さを録音で緩和できたかもしれませんが、それは補助の域を超えないですよね。演奏会に代わるものなどありませんから…私の演奏会への愛は常に深まっています。
     またLFJ東京で演奏できることは大きな喜びです!

    【Information】
    公演番号221〈巨人の内面を行き交う平安と嵐〉※完売
    5/5(金・祝)10:00 ホールC〈エレオノーレ〉
    曲目:
    ピアノ・ソナタ第15番 ニ長調 op.28 「田園」
    ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 op.57 「熱情」

    公演番号322〈名ピアニストによる疾風怒濤、巨人が書いた嵐の名曲を〉*完売
    5/6(土)12:30 ホールC〈エレオノーレ〉
    曲目:
    ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-2 「テンペスト」
    ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 op.53 「ワルトシュタイン」

    公演番号314〈歌にピアノに、音楽が孕むドラマと覇気の巨大〉
    5/6(土)17:50 ホールA〈マリア・マグダレーナ〉
    出演:
    天羽明惠(ソプラノ)
    アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
    リオ・クオクマン(指揮)
    神奈川フィルハーモニー管弦楽団

    曲目:
    シェーナとアリア「ああ、不実なる人よ」 op.65
    ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73 「皇帝」


    アブデル・ラーマン・エル=バシャ公演詳細ページ
    https://www.lfj.jp/lfj_2023/performance/artist/detail/art_A024.html

    問:ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2023 運営委員会事務局
    lfjtokyo2023@kajimotomusic.com