ピアノの清水和音、チェロの向山佳絵子、ヴァイオリンの松田理奈。それぞれの世代を代表する名手が、新春の浜離宮朝日ホールで再会する。それぞれに共演は重ねつつも、トリオとしては実に16年ぶり、2度目の演奏会となるだけに、いろいろと期待も大きい。
互いに信頼するベストメンバーが集結
「最初にこのトリオで演奏したのは2009年。まだ室内楽をあまりしていなかった時期で、いきなり幼少から聴いてきたおふたりとの共演ですから。私はかなり必死だったけど、すごく居心地が良かったという、あの感覚は未だに忘れられない」と松田は言う。
「室内楽のなかでも、とくにピアノ・トリオは、存在感の強い人を選んで、いっしょにやりたい。そこに醍醐味がある、曲がそういうふうに書かれているから」と清水は語る、「どの場面も遠慮があってはだめで、互いに支え合いながら、自分のパートが主張していないと、曲そのものが埋没してしまう」。
「トリオとなるとやっぱり個々の責任が重くなってくる。それぞれ違うところにこだわりがあって、だからいっしょにやると面白いんじゃないかな。ソリストが集まってもできるジャンルで、どれぐらいアンサンブルを追求し、お互いの関係性を突き詰めるか、という楽しみがトリオにはある」と向山も言う。
「ピアノ三重奏曲には、演奏によっていろいろな顔をつくれる幅広さがあると感じます」と松田、「おふたりと演奏できるのは、私にとってご褒美みたいな機会です。16年前とは楽譜から見えることが全然違うし、本番中もみなさんの音をもっと楽しめるようになりましたし」。
「佳絵子さんは楽器を鳴らす能力が随一で、圧倒的な音をもっている。30年以上前から知っているけれど、相変わらず天才すぎて。理奈さんはいつもナチュラルで、自然に音楽と対峙できる良さがある。ちょっとしたニュアンスも気が利いているし。ふたりともアンサンブル能力が最高だから」と清水は称える。
「和音さんはなんでもできる人。すごくダイナミックでもあり、すごく繊細でもあって、両方をもち合わせている」と向山。「ピアノなのに弦楽器の響きと、向こうからきれいにハモってくれるのも心地よい」と松田も言う。
16年ぶりにこの3人で挑むシューベルト晩年の傑作
プログラムには、シューベルトのピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 D898と、チャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出に」イ短調というジャンル屈指の名曲が組まれている。
「ピアノ・トリオは大作が多いし、長い曲が多い。そのなかでいちばんディープなチャイコフスキーと、さわやかなシューベルト。色合いの正反対のものを選んだ」と清水。
シューベルトは3人で最初に共演した曲でもある。
「個人的に大好きな曲。チェリストにとっては理不尽なくらい難しいから、『やってくれますか』とまずお伺いを立てるんだけど、佳絵子さんは大丈夫だから、事後報告で決めました」と清水は笑う。
「シューベルトは意外に弾きにくくて、弦楽器の都合にはうれしくない」と向山も言う、「そして、音のつくりはシンプルで、すごく繊細な表現が必要になってくる。シンプルなものをどういう表現で攻めていくのか、という楽しみがあります」。
「チャイコフスキーは、3人では足りないような音楽をコンパクトにトリオにした感じ。名人芸をぶつけるような良さがあって、3人ともコンチェルトを弾いている感じになれるのが面白い」と清水。
「シューベルトに比べたら自由度が増すし、それこそ駆け引きが楽しいようなつくりになっているから」と向山も言う。
「悲しい、辛いという叫びの部分と、そこを通り越した後の願いや祈りも入っている曲だと思います。どういう度合いの気持ちで行くかは、合わせてみての楽しみ」と松田は語る、「浜離宮朝日ホールは最適のサイズで、弾きやすいし、聴きやすい。客席で聴いても、響きのバランスが良いですね。人間がちょっと見える距離というか。アンサンブルの最中の人間模様がとくにトリオは楽しいから、このホールで演奏できて、とてもしあわせです」。
取材・文:青澤隆明
(ぶらあぼ2024年12月号より)
清水和音 × 松田理奈 × 向山佳絵子 ~偉大な芸術家の思い出に~
2025.1/26(日)15:00 浜離宮朝日ホール
曲目
シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 op.99 D898
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」 イ短調 op.50
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/