佐渡裕&新日本フィルが戦後80年に届ける鎮魂のひびき

左より:佐渡 裕 ©Takashi Iijima/キュウ・ウォン・ハン ©Yuji Hori/山川永太郎

 新日本フィルの「すみだクラシックへの扉」第28回には音楽監督の佐渡裕が登場、フォーレの「レクイエム」をメインに据えたプログラムで新しい年のスタートを飾る。

 この選曲は墨田区の歴史と関係がある。軍需工場が林立していたこの一帯は、1945年3月10日の東京大空襲で壊滅的な被害を受け、6万人を超える人が犠牲になった。2025年はそれからちょうど80年。数あるレクイエムの中からフォーレのそれが演奏されることには、この曲が天国的な美しさをもつ上に、「怒りの日」というミサとしてのレクイエムには18世紀以降不可欠となった楽章がないということも関係していよう。各地で紛争の炎が吹き上がる昨今、対立は怒りをもってしては乗り越えられないのだという、過去を通した現状へのメッセージがそこに感じられる。バリトンを歌うキュウ・ウォン・ハンは佐渡が同じく芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターにもたびたび出演、新日本フィルの合唱ものには欠かせない栗友会合唱団と共に息の合ったところが期待できよう。

 前半はユーモラスな身振りが楽しいイベール「室内管弦楽のためのディヴェルティスマン」(劇音楽を編みなおしたもの)にアルチュニアンのトランペット協奏曲が続く。アルチュニアンはアルメニア出身の作曲家で、この協奏曲もエスニックなテイストを響かせながらトランペットが縦横無尽に活躍する、その界隈では有名な作品だ。オーケストラの定期演奏会に上がるのは比較的珍しいが、その心は「ソロを務めるウチ(新日本フィル)の首席・山川永太郎の腕前をみてくれ!」ということだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年12月号より)

佐渡 裕(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団
すみだクラシックへの扉 第28回
2025.1/31(金)、2/1(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp