来年2月、藤原歌劇団が創立90周年記念公演として取り上げる《ファルスタッフ》は、老大家ヴェルディ最後のオペラ。色好みの老騎士が、婦人たちから明るく仕返しされるという「客席を朗らかにする」一作だ。
さて今回、この名作で青年フェントンを演じるのが、関西出身の清水徹太郎。爽やかな高音域を武器とするテノールで、近年は日本各地から引っ張りだこである。
「同じ神戸市出身の演出家、岩田達宗さんと約10年ぶりにご一緒できることが嬉しいです。フェントンは、人との距離感を全然気にせず、どんな場面でも自然に振る舞える若者ですが、私にとっては自分の音域やキャラクターを自然に出しやすい役なので、メイクの力も借りて若々しく演じられれば(笑)」
ワーグナー《ラインの黄金》のローゲやケルビーニ《メデア》のジャゾーネなど、重い役も続いた清水だけに、抒情性際立つフェントン役は「故郷に戻る」懐かしさがあるのだろうか。
「オペラでも演奏会でも、まずは、いろんなお話がくる有難さを噛み締めながら、我欲を出さずに歌いたいです。藤原歌劇団へのデビューでフェントン役が出来ることはやはり嬉しいです」
なるほど。歌手人生に至るきっかけは?
「小学校からピアノをやっていました。中学の時に阪神淡路大震災を経験し、自分が人の役に立てることって何だろうと考えました。高校の時オーストラリアに留学しましたが、南半球なのでクリスマス・オラトリオを野外で聴く体験もしました。現地の男子高校生は合唱の時間でも全力で歌い、日本人の恥ずかしがりなど欠片もない(笑)。そのことに影響されたことも声楽を志すきっかけとなり、その後様々なご縁をいただき京都市立芸術大学に入学できました。まずはバリトンの蔵田裕行先生からドイツ歌曲を集中的に学び、その後、バリトンの福島明也先生にみっちり教えていただきましたが、実は蔵田先生の退官後に福島先生が着任されるまでの間、イタリア語の先生のご紹介で一度、テノールの田原祥一郎先生のレッスンを受けられる機会をいただきました。すると、最初のレッスンで音域が4度上がり、『あなた、テノールですね』と言われました」
ということは? それまではバリトン?
「はい。その一日で上のシまで出せたんです。田原先生の真似を一所懸命やっていたら突然、高音が出るようになりました…。宗教曲も大好きで、バッハの受難曲も歌いたかったので、そのままテノールで歩んでいます。《ファルスタッフ》は、最晩年のヴェルディが心血注いで書き上げた喜劇の名作で、美しい曲がギュギュっと詰め込まれた素晴らしいオペラです。素敵な共演者の皆さんと楽しく勉強し、本番に臨みます!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年12月号より)
藤原歌劇団創立90周年記念公演 ヴェルディ《ファルスタッフ》
ニュープロダクション(全3幕、字幕付き原語(イタリア語)上演)
2025.2/1(土)、2/2(日)各日14:00 東京文化会館
2/8(土)14:00 愛知県芸術劇場
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp
※清水徹太郎は2月2日公演に出演。配役などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。