大阪フィルハーモニー交響楽団が音楽監督である尾高忠明と手がけてきた年間企画は、就任以来、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、フランス音楽と続けられ、2023年度は「メンデルスゾーン・チクルス 〜メンデルスゾーンへの旅〜」が開催されることになった。4月14日、会場となるザ・シンフォニーホールで尾高忠明を囲んでの記者懇親会が開かれた。
4回の演奏会にメンデルスゾーンの5曲の交響曲が振り分けられる。協奏曲は3曲が選ばれた。ヴァイオリン協奏曲ホ短調に加えて、2曲のピアノ協奏曲。さらに「静かな海と楽しい航海」「フィンガルの洞窟」「ルイ・ブラス」という3曲の序曲がそこに組み合わされる。国内でメンデルスゾーンの交響曲を中心としたオーケストラ曲をまとめて聴く機会は少なく、これまでは生誕200年の2009年に九州交響楽団が当時ミュージック・アドヴァイザー・首席指揮者を務めていた秋山和慶と手がけたことがあった程度。ただし、メンデルスゾーンのいくつかの作品はオーケストラのレパートリーとして定着していて、取り上げられる機会が多いのも周知の通りだ。
尾高はNHK交響楽団の桂冠指揮者であったヴォルフガング・サヴァリッシュからメンデルスゾーンの作品について薫陶を受けた思い出を話す。「『イタリア』の冒頭がスムーズに振れるようになったら一人前だ。あれは俺でも難しい。体の動きに注意して振らなきゃいけない。ぎこちないとメンデルスゾーンはだめだ」と言われたそうだ。「メンデルスゾーンの全交響曲の演奏ができて、終わった暁には大阪フィルのレベルが一段階あがることを望んでいます。この次のステップに上げるために『純度が高い』この音楽が必要なんです」と力説した。
また、「弾いてる人が『この曲がいい。これだ!』という演奏をしたい。メンデルスゾーンの曲は、音の数は多くなくても、無駄がまったくない。放射するのではなく中に入っていくパッションを感じる音楽で、振っていて興奮させられます」と指摘する。「大多数のドイツの作曲家がウィーンに行った中で、メンデルスゾーンがライプツィヒを中心としてドイツにとどまって活動を続けたということを大事にしたい」とも。
5曲の交響曲の中で第5番「宗教改革」に尾高は初めて取り組む。これまで最も数多く取り組んできた第4番「イタリア」は、「エポックメイキングとして凄い曲」と形容した。第3番「スコットランド」は「あふれでる音楽がほとばしっています」。第2番「讃歌」は「メンデルスゾーンにとって親しみのあった合唱と独唱が入る音楽」で、第1番は「なかなか演奏されないけど、とてもいい曲」と述べる。
2曲のピアノ協奏曲については「自分でよくピアノを弾けた人が書いていることがよくわかる作品で、音楽の澄み具合をぜひ聴いてほしい」。有名なヴァイオリン協奏曲は「どこか一ヵ所でもうまくいかないところがあると、構築物が崩れてしまって取り戻すことができない」と話す。
「僕にとっても大事だし、大フィルにとっても今一番求められているのがメンデルスゾーンの作品」だという。尾高と大阪フィルが奏でるメンデルスゾーンの音楽に注目したい。
取材・文:小味渕彦之
【Information】
メンデルスゾーン・チクルス(全4回)
〜メンデルスゾーンへの旅〜 セット券あり
尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団
Vol.1
2023.6/8(木)19:00 ザ・シンフォニーホール 3/14(火)発売
♪序曲「静かな海と楽しい航海」
♪ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:アラベラ・美歩・シュタインバッハー)
♪交響曲第1番
Vol.2
8/25(金)19:00 ザ・シンフォニーホール 5/30(火)発売
♪交響曲第5番「宗教改革」
♪ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:務川慧悟)
♪交響曲第4番「イタリア」
Vol.3
11/9(木)19:00 ザ・シンフォニーホール 7/25(火)発売
♪序曲「フィンガルの洞窟」
♪ピアノ協奏曲第2番(ピアノ:河村尚子)
♪交響曲第3番「スコットランド」
Vol.4
2/15(木)19:00 ザ・シンフォニーホール 11/28(火)発売
ソプラノ:盛田麻央、隠岐彩夏
テノール:吉田浩之
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団
♪序曲「ルイ・ブラス」
♪交響曲第2番「讃歌」
問:大阪フィルチケットセンター 06-6656-4890
https://www.osaka-phil.com