ミハイル・プレトニョフ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

魔術的なタクトで紡がれる人気作曲家の変遷

ミハイル・プレトニョフ(c)Takafumi Ueno

 東京フィルにポストを持つ3人の外国人マエストロの中でひと際個性的なのが、特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフだ。超一流のピアニストでもある彼は、その高い芸術性を指揮の分野でも発揮し、“クールにして生気漲る”といった風情や他にない色彩感を持った唯一無二の音楽を紡ぎ出す。東京フィルで聴かせた最近の好例が、2月のチャイコフスキー「マンフレッド交響曲」。それは、精緻で濃密かつ引き締まった、同曲のイメージを変える快演だった。

 ひと工夫されたプログラムも彼の魅力。5月のラフマニノフ・プロはまさにそうだ。今年生誕150年&没後80年を迎えた同作曲家の作品はあまねく取り上げられているが、幻想曲「岩」、交響詩「死の島」、交響的舞曲が並ぶ今回は、プレトニョフの面目躍如たる内容と言っていい。「岩」はモスクワ音楽院卒業直後の1893年に書かれた初期の作品、「死の島」は交響曲第2番やピアノ協奏曲第3番に近い1909年に書かれた充実期の作品、「交響的舞曲」はアメリカ亡命後の1940年に書かれた生涯最後の完成作品。すなわちここで、半世紀近くに及ぶ作風の変遷が端的に示される。また、「岩」はチェーホフの小説『旅中』に着想を得たチャイコフスキー風の音楽、「死の島」はベックリンの絵に基づいた印象派をも思わせる音楽、「交響的舞曲」は多彩なリズムが弾むシンフォニックな音楽で、それぞれの描き分けも注目される。

 ピアノ協奏曲でも交響曲でもなく、管弦楽曲のみでラフマニノフの生涯を追う、極めて稀にして示唆に富んだこのプログラム。ぜひとも生で体感したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年5月号より)

第984回 サントリー定期シリーズ 
2023.5/10(水)19:00 サントリーホール
第154回 東京オペラシティ定期シリーズ
5/12(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第985回 オーチャード定期演奏会 
5/14(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
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