マルク・ルロワ=カラタユー(指揮)

エネルギーと遊び心を堪能してください

 いまヨーロッパで注目を集める気鋭の指揮者マルク・ルロワ゠カラタユー。スイス出身の彼は「10歳からトランペットを始め、後にホルンとピアノを学んだ」異色のスタート後、「16歳頃から指揮者を志して5年間ウィーンで勉強し、ボルドー国立歌劇場で3年間アシスタントを経験。現在はカンヌ管とジュネーヴ室内管のポストを持ち」ながら、各地で客演を続けている。日本では、2018年のミンコフスキ&オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるドビュッシー《ペレアスとメリザンド》で副指揮者を務め、今年2月には新国立劇場バレエ団『コッペリア』で東響を指揮した。

 彼は来る7月、OEKおよびピアノの辻井伸行とともに日本ツアーを行う。これは《ペレアス〜》の際の指揮ぶりが評価されての抜擢。ツアー初日はOEKの定期でもある。

「アンサンブル金沢は非常に柔軟で、私の提案にも『喜んでやってみよう』といった姿勢で応えてくれますし、サウンド的にも素晴らしい。なので今回また指揮できるのは嬉しいですね」

 プログラムは、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》序曲、シューマンのピアノ協奏曲、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。極め付きの独墺名曲集だ。

 「どれも間違いなく古典的な名作ですが、それぞれ方向性が異なっています。ベートーヴェンの5番は、19世紀前半の作曲の規範に反した凄い曲。1つの動機をもとに書かれた革命的な作品で、爆発的なエネルギーを持っています。《ドン・ジョヴァンニ》は、モーツァルトが様々な作曲のテクニックを注ぎ込んで書いた傑作オペラであり、シューマンのピアノ協奏曲は、本当に繊細で宝物のような作品。後者は展開部などにベートーヴェンの影響を聴き取ることもできます」

 OEKのような室内管(8型)での管弦楽作品の演奏は、むしろ歓迎だという。

 「モーツァルトやベートーヴェン当時のオーケストラは大きな編成ではないですし、音楽の色合いや劇的な部分を引き出すには、室内管の編成の方が良いと思っています。シューマンの協奏曲にしても、このくらいの編成ならば柔軟にソリストと反応し合えるのではないでしょうか」

 ピリオド楽器や奏法も「ウィーンでアーノンクールのリハーサルを見たり、ミンコフスキのアシスタントとして触れたり」しているが、そのスタイルが日常ではない楽団に持ち込むことはせず、「あくまで様式と劇的な表現が重要」だと話す。

 なお、ピアノの辻井伸行とは初共演。「録音を聴くと、音とフレージングが洗練されている印象がありますが、生身の彼と共演するのをとても楽しみにしています」と期待を寄せる。

 最後に今回のツアーに向けたメッセージを。

「皆さん絶対に来るべきです。人間性が感じられる愉しいコンサートになりますよ。特にベートーヴェンの5番は、悲劇に始まってエネルギーの塊で終わります。彼は19世紀におけるハードロックの作曲家と言っていいくらいですから、爆発力と遊び心を堪能できます」

 新国立劇場の『コッペリア』での生気に富んで引き締まった指揮ぶりも印象的だったルロワ゠カラタユー。シンフォニック・レパートリーでの音楽作りが実に楽しみだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年5月号より)

辻井伸行(ピアノ) マルク・ルロワ゠カラタユー指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
《古典派からロマン派へ》
2023.7/13(木)19:00 石川県立音楽堂(076-232-8632) 5/13(土)発売
7/15(土)14:00 滋賀/びわ湖ホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
7/16(日)14:00 和歌山県民文化会館(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
7/17(月・祝)15:00 富山/氷見市芸術文化館(0766-30-3430) 4/29(土・祝)発売
7/19(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(チケットスペース03-3234-9999) 5/13(土)発売
7/20(木)19:00 岐阜/サラマンカホール(058-277-1110)
7/21(金)19:00 岐阜/高山市民文化会館(0577-34-6550) 5/20(土)発売
7/23(日)14:00 神奈川/よこすか芸術劇場(完売)
https://avex.jp/tsujii/live/tour.php?id=1002259
※ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。