現代奏造Tokyo 第8回定期演奏会

三善晃の生誕90年を祝して
そして公募によるユーフォニアム協奏曲を世界初演

 今年5月、「現代奏造Tokyo」が第8回定期演奏会を行う。2016年に結成された同楽団は、約40名の若手プロ管楽器&打楽器奏者によって構成され、音楽監督と指揮をクラリネット奏者で東京シンフォニエッタの音楽監督・板倉康明が務めている。活動は年1回の定期演奏会と年6回の「シリーズコンサート」が中心。このほか「室内楽演奏会」も随時開催している。

 形から見れば、彼らは「吹奏楽団」だ。しかし実体は新たな問題意識を持って演奏に取り組む「管打楽合奏団」であり、「吹奏楽も弦楽四重奏等と同じ“演奏形態”のひとつ」との考えをベースに、音楽的価値の高い現代作品を主軸とした創造的活動を行っている。

現代奏造Tokyo

 活動の根底にあるのは、「日本の吹奏楽がコンクールを中心とした閉じた空間になっていること」だと板倉は話す。さらに「その閉じた空間を広げるために、いわゆる“吹奏楽作曲家”ではない作曲家を取り上げるようにしている」とも語る。平たく言えば「管打楽合奏という形態の中で、“良い音楽”だけを聴かせる」のが主旨。ゆえにその活動と演奏は、通常の吹奏楽とは一線を画している。

 昨年2022年の定期演奏会もまさしくそうだった。「日仏作曲家」をテーマにしたプログラムは、クラシック系作曲家のオリジナル作品が並ぶ独創的なもの。冒頭のブルーノ・マントヴァーニ「札幌のためのファンファーレ」では、同類曲と異なる複雑な音の綾がインパクトを与え、おつぎの黛敏郎の行進曲「祖國」「黎明」では、密度の濃い表現によって黛の天才ぶりが明示された。前半最後のメシアンの「われ死者の復活を待ち望む」は、オーケストラの管・打楽器編成で書かれた全5曲の大作。これは、集中力と精度・鮮度の高い演奏で、各曲の性格と作品全体の凄みが彩り豊かに表現された。オーケストラでも吹奏楽団でも難儀なこの作品の名演こそ、管打楽合奏団たる彼らの真骨頂だろう。

 後半は現代日本の作品。13人の管楽合奏のために書かれた酒井健治「青のアンティフォナ」が精妙に奏され、同じく酒井の大編成曲「デチューン」の緊迫感漂う演奏、西村朗「秘儀Ⅷ 地響天籟」の精緻でダイナミックな快演が続いた。

 全体に、高い技量と濃厚なサウンドや、長く深い発音がオーケストラ風(弦楽器風)である点が印象的。この楽団には今後大いに注目していきたいと思うことしきりだった。

板倉康明

 今回の第8回定期演奏会「三善晃、生誕90年ー『呼吸』」も刮目すべきプログラムが組まれている。主軸をなす三善晃(1933〜2013)は、武満徹らと並ぶ日本の最重要作曲家。その大家は、今回演奏される「深層の祭」で吹奏楽のイメージを一新した。これは1988年のコンクール課題曲だが、高度な技術を要する凝縮された構成、緊張感と内省的な充実感に充ちた内容で斯界に衝撃を与え、その後も重要レパートリーであり続けている。

 続く「クロス・バイ・マーチ」も1992年のコンクール課題曲で、やはり行進曲の常識を覆したハイクオリティな音楽。もう1つ、「スターたちのアトランピック」も演奏される。1996年作のこの曲は、和のテイストも交えた鮮烈な音楽。これも三善の吹奏楽作品を代表する1曲だ。

 “吹奏楽作曲家”ではない三善晃の深みある作品は、現代奏造Tokyoのコンセプトにピッタリだし、そもそも三善は、同楽団の指揮者・板倉に、吹奏楽に関わるきっかけと考え方の示唆を与えた人物。今回は、そうしたシンパシーと楽団のスタイルが相まって、渾身かつ清新極まりない音楽が生み出されるに違いない。

 また、様々な楽器が主役を務める作品も3曲用意されている。まずは現代音楽界の第一人者・西村朗の「秘儀Ⅵ〈ヘキサグラム〉」。現代奏造Tokyoは、「秘儀Ⅲ」が2015年のコンクール課題曲になったこともあって吹奏楽界で人気が高い「秘儀シリーズ」に着目し、ほぼ毎回取り上げている。ただし今回の「秘儀Ⅵ」は、2020年に書かれた金管アンサンブル作品。ここは同セクションの妙技に期待が集まる。

下払桐子

 次いではジョリヴェの「フルートと打楽器のための協奏的組曲」。20世紀中盤のフランスを代表する作曲家がフルートの巨匠ランパルのために書いた作品で、多彩な響きが駆使されたフルートと打楽器の絡み合いが音の異空間を醸成する。多数のコンクールで1位を獲得後、クラシック畑で活躍するコンサート・ミストレス・下払桐子のフルート独奏も要注目。

大山智

 さらに今回の目玉として、公募したユーフォニアム協奏曲の世界初演が行われる。選ばれたのは、中国の作曲家・徐宸瑄の『彷徨いの想い ユーフォニアムと吹奏楽のための』。これが、同楽団のミュージックアドヴァイザー・大山智のソロで披露される。大山は、東京藝大を卒業後、吹奏楽やオーケストラへの客演その他、幅広い活動を続ける名手。ここは新作の出来映えと、まろやかなユーフォニアム・ソロの両面が興味深い。

 本公演は吹奏楽愛好家も一般ファンも新鮮な音楽体験を得られること必至。皆こぞって足を運んでほしい。
文:柴田克彦

【information】
現代奏造Tokyo 第8回定期演奏会
2023.5/17(水)19:00 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

〈出演〉
指揮:板倉康明
フルートソロ:下払桐子
ユーフォニアムソロ:大山 智
現代奏造Tokyo

〈曲目〉
三善 晃:吹奏楽のための「深層の祭」(1987)
三善 晃:吹奏楽のための「クロス・バイ・マーチ」(1991)
三善 晃:スターたちのアトランピック(1996)
西村 朗:秘儀Ⅵ〈ヘキサグラム〉(2020)
アンドレ・ジョリヴェ:フルートと打楽器のための協奏的組曲(1965)
徐 宸瑄:彷徨いの想い ユーフォニアムと吹奏楽のための(委嘱公募作品 世界初演)

問:現代奏造Tokyo gendaisouzou.tokyo@gmail.com
https://gendaisouzou.amebaownd.com