一昨年の3月に還暦を迎え、《OZONE60》というタイトルでCDをリリースすると共に、全国47都道府県のライブ・ツアーを成功させた小曽根真。その後も、ジャズやクラシックなど、ジャンルをこえてますます精力的な活動を展開する日々がつづいているが、この5月には、バークリー音大時代の同級生たちと久々に再会するコンサートを東京と兵庫で開催する。
ひと口に同級生と言っても、いずれも世界のジャズ界を牽引する強者ばかり。ブランフォード・マルサリス(サックス)とジェフ“テイン”ワッツ(ドラムス)の2人は、共に1960年生まれで小曽根とは同世代、バークリー音大時代からの盟友である。ベースのクリスチャン・マクブライドだけはジュリアード音楽院の卒業生で、ほかの3人よりもひと回り若い72年生まれ。すでに、グラミーを8回も受賞している世界的アーティストだ。今回実現した豪華な「同窓会」コンサートについて、小曽根真から話を聞いた。
「ぼくがバークリー音大に行ったのは1980年の秋、当時はカタコトの英語さえ話せなかったので、自分をアピールするには、学校の練習室で派手にピアノを弾きまくるしかない日々を送っていました。
ある日、練習室のドアをノックする音が聞こえたので開けてみると、ドアの高さに届くくらい背の高い黒人の若者が立っていたのです。どうやら彼は、『おまえ、上手いな。セッションやるから、ちょっと来てくれないか』と言っているようなので、恐る恐る後ろを歩いて行くと、着いたところは学校の地下にあるリハーサルルームでした。そこには十数人の学生たちが集まっていたのですが、ブランフォード・マルサリス、ジェフ“テイン”ワッツ、ドナルド・ハリソン、ウォレス・ルーニー、マーヴィン“スミティ”スミス、ウォルター・ビーズリーなど、名前を挙げると後にジャズ界の大スターとなるミュージシャンばかりで、当時は全員が19歳でした。
そこで、ぼくが最初に弾いたのがスタンダート曲の“I’ll Remember April”。彼らとのセッションを通じて味わったグルーヴ感は格別なもので、ぼくにとって一生忘れることができない思い出となりました」。
この日の出来事が機縁となり、小曽根とブランフォード、そしてテインはライブハウスで観客を前に演奏することになる。
「ブランフォードから『マコト、一緒に仕事するか?』と言われて、バークリーの近くにある汚いジャズクラブに行きました。暗い店内には古びたジュークボックスが置かれていて、日本人などは絶対に近づかないような雰囲気の場所です。店主のおばさんとは、バンド全員で一晩20ドルの出演料という約束で仕事を始めました。ブランフォードとテイン、ドナルド・ハリソンとヒュー・ハミルトン、それにぼくを加えた5人編成だったので、ギャラは1人あたり4ドルずつ(笑)。たまたま、そこに置いてある楽器がハモンドオルガンだったことで、ぼくが足でベースラインを担当することになり、次回のライブからはベースがクビになってしまいました。その結果、ひとり当たりのギャラは5ドルに値上げということになりました(笑)」。
共に武者修行をつづけ、切磋琢磨しながら世界の頂点に上りつめたミュージシャンたちの青春グラフィティーを見る思いだが、音楽的な妥協を許さないお互いの真摯な姿勢は、学生時代から数十年が経った今でも継続している。
「2013年12月、Bunkamuraオーチャードホールで、ブランフォード、クリスチャン、テインとの共演が実現しました。いまから10年前のことです。当時、このライブ録音をリリースする予定だったのですが、ぼくのミックス(録音後に各楽器のバランスなどを調整すること)に対してブランフォードから注文が出て、結果的に彼自身がミックスを担当することになりました。お互いに安易な妥協は避けようと言うわけです。その間、彼もぼくもあまりに多忙で、ミックスが完成するまで、とうとう10年の月日が経ってしまいました」
このときのライブ録音は、今回の来日公演にあわせて4月21日にユニバーサルミュージックから《A Night in Tokyo》というタイトルでCDリリースされる。それにしても、ミックスについてブランフォードの注文とは、どんなものだったのだろう。
「ひとつは、彼のサックスの音とぼくのピアノの音のバランス。ぼくは『オレがオレが』と前にしゃしゃり出るタイプではないので、ブランフォードがソロを演奏しているとき、ピアノは少し控えめになるようにミックスしていたのですが、彼は『この部分は、マコトにもっと前にでてきてほしい』と言う感じで、かなり細かいバランス調整を行なっていました。ジャズのコンボはクラシックの弦楽四重奏のように、各奏者の緻密な受け応え、つまり対話が重要になりますが、そのことをブランフォードはもっと明確にしたかったのだと思います。
演奏家同士が相互に音を聴き合うということ。そして、楽器のもつ音色感、いかに多彩なパレットを持てるか?ブランフォードもぼくも、なぜか偶然にも同じ頃にクラシック音楽の世界を体験していったことで、これらの感覚はとくに大切にしています。そのようなこともあって、ついつい1曲の演奏時間が10分を大幅に超えてしまったりするのですが(笑)」
およそ40年も前に出会い、JAZZという特別な言語を通して今でも変わらぬ友情で結ばれている音楽家たち。彼らとのつながりを象徴するように、小曽根はインタビューの中で、何度もBrother=兄弟という言葉を使った。メンバーが相互に熱い思いを共有する世界最高峰のスーパー・カルテット、聴き逃せない一夜となりそうだ。
取材・文:白柳龍一
【information】
⼩曽根真 スーパー・カルテット
2023.5/17(⽔) 19:00 サントリーホール
https://www.hirasaoffice06.com/concerts/view/424
5/18(⽊) 19:00 兵庫県⽴芸術⽂化センター KOBELCO⼤ホール
https://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertDetail.aspx?kid=5031011306&sid=0000000001
メンバー:⼩曽根真(p) ブランフォード・マルサリス(sax) クリスチャン・マクブライド(b) ジェフ“テイン”ワッツ(ds)
⼩曽根真 スーパー・トリオ
featuring クリスチャン・マクブライド & ジェフ“テイン”ワッツ
ブルーノート東京
2023.5/19(⾦)
[1st]Open5:00pm Start6:00pm
[2nd]Open7:45pm Start8:30pm
5/20(⼟)
[1st]Open3:30pm Start4:30pm
[2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/makoto-ozone/
ビルボード⼤阪
2023.5/22(⽉)
[1st]Open5:00pm Start6:00pm
[2nd]Open8:00pm Start9:00pm
http://billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=14077&shop=2
メンバー:⼩曽根真(p) クリスチャン・マクブライド(b) ジェフ“テイン”ワッツ(ds)
CD『小曽根真 スーパー・カルテット《A Night in Tokyo》』
UCCJ-2222 SHM-CD ¥3,300(税込)
Blue Note / Universal Music
2023.4/21発売