彩の国さいたま芸術劇場が、2023年度のラインナップを発表した。3月23日行われた会見には、近藤良平芸術監督、同劇場と埼玉会館を運営する埼玉県芸術文化振興財団の加藤容一理事長が登壇。24年2月まで大規模改修により休館中のため、現在は埼玉会館に拠点を移して事業を行っているが、23年度は「さあ、出かけよう」を合言葉に、劇場から外に飛び出すプログラムがメインに組まれた。
「コロナの状況がやっと少し明るくなり、劇場に行きたい、僕も行きたいしというなかで、WBCで大谷選手が『楽しく野球を』とよく言っていましたが、楽しく未来に向かって、いろいろと挑戦したいという思いです。『さあ、出かけよう』というテーマはシンプルですが、皆さんとお会いする企画、もう一度出会う企画をラインナップにしました」
芸術監督2シーズン目となる近藤だが、就任時から「クロッシング(交差する)」をテーマに展開している。 そこには「ジャンルを超えた様々なアーティストが交流し合い、考え、想像していく」「多くの人が出会い、クロスする場所」「地域間やオンライン上など、場所やネットワークなどを含めたところでの交流」と、3つの意味を持たせており、23年度は、初年度より構想をあたためていた企画「埼玉回遊」がいよいよ始動する。
「埼玉回遊」は芸術監督による発信企画の一つ。近藤自らが県内を巡り、人、モノ、歴史、自然、多彩な文化を訪ね歩き、そこで出会った人たちと各地域でライブパフォーマンスを行い、映像作品も残していきたいと語る。他薦限定で、4月からインターネットなどで募集を開始。24年3月には一つの集大成として〈特大号〉の上演も予定している。
「埼玉を5地域に分けて、まずは一地域5事業を目安に、そこに眠っているもの、声をあげていないものを、人伝に聞いて、拾いあげていきたい。少し大げさですが、アートを軸にした新しい埼玉の民俗誌を編むという心意気でいます。
時間のかかる作業ですが、今後は映像発信も考えています。ただYoutubeやTikTokを含めて映像が溢れているなかで、どこか映像を見たくないという思い、さらっと流されてしまわれないか、という不安があります。その部分はいまの劇場文化とも密接にならざるを得ず、『埼玉回遊』では作品として観られる映像を創って発信したいと思っています」
芸術監督企画のもう一つは「ワークショップ・アラカルト」。休館前の2022年にも開催したが、「今回は各地をまわって、ワークショップを通して多様な人たちとの出会い」を探る。これは24年度に行う新シアターグループ設立のための準備の位置づけでもある。「スペシャリティーが高い方から狭めるよりは、いろんな“普通”な方々に出会い、新しいシアター構想を考えていきたい」と想いを語る近藤。前芸術監督の蜷川幸雄のもと「さいたまネクスト・シアター」「さいたまゴールド・シアター」といった試みを具現化してきたが、次なるプロジェクトを視野に入れての企画だ。
地域に出かけるプログラムでは、埼玉会館のほか熊谷市など全国11都市を巡る、マームとジプシーの藤田貴大による子どもと大人が一緒に楽しむ演劇『めにみえない みみにしたい』や、東松山市と白岡市で上演されるリトアニアのダンセマ・ダンス・シアター『 カラフルパズル』がラインナップされた。
その他ダンスでは、2020年、22年にコロナ禍で実現できなかったオハッド・ナハリン/バットシェバ舞踊団が24年1月に来日。音楽では、バッハ・コレギウム・ジャパン「メサイア」、梅田俊明指揮N響、金川真弓(ヴァイオリン)と小菅優(ピアノ)のデュオコンサートなどが予定されている。劇場の代名詞とも言える彩の国シェイクスピア・シリーズは、23年度に勉強会が予定されており、24年度以降は様々な企画を検討しているという。
24年3月のリニューアルオープンに向けて着々と準備が進んでおり、「今まで以上により良い環境のもとで鑑賞、利用してもらえる(加藤容一理事長)」劇場となる。
今後の公共劇場の在り方について、他劇場の芸術監督たち——白井晃(世田谷パブリックシアター)、長塚圭史(KAAT 神奈川芸術劇場芸術監督)、小川絵梨子(新国立劇場演劇芸術監督)とも意見交換を行っていると語る近藤。
「公開のトークイベントなどを通して対話の時間を重ねています。昔は劇場ごとに分かれて事を考えていた部分を、お互いに補いながら何ができるのか。今回のテーマ『さあ、出かけよう』ではないですが、横との繋がりの可能性を、以前よりも話し合っています。ただ簡単なことではないこともありますが一つひとつ、新しい風や波、公共劇場の向きあい方を探っています」
2024年は開館30周年と節目を迎える彩の国さいたま芸術劇場。近藤良平芸術監督のもと打ち出される新たな歩みに期待したい。
彩の国さいたま芸術劇場
https://www.saf.or.jp/arthall/
埼玉県芸術文化振興財団
https://www.saf.or.jp
*2023年度ラインナップの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。