第二次世界大戦前夜に書かれた2作品
日本フィルの新シーズンが、今年も正指揮者・山田和樹のタクトでスタートする。
邦人作品の演奏にも積極的な山田だが、今回は貴志康一の「ヴァイオリン協奏曲」を取り上げる。貴志は戦前にヴァイオリンや作曲を学びに渡欧、ベルリン・フィルで自作を録音するなど、キャリアを極めて帰国し、これからという矢先に28歳で病没している。「ヴァイオリン協奏曲」は欧州滞在中の1931年に書き始められ、死の2年前の35年に完成された。ロマン派的な語法やヴァイオリンの超絶技巧を、日本風の響きとドッキングさせた意欲作だ。戦前期の日本作曲界の到達点を示す作品を、日本フィルが誇るコンサートマスターの田野倉雅秋のソロで。
後半は1909年生まれの貴志とほぼ同世代の、イギリスの作曲家ウォルトン(1902年生まれ)の交響曲第1番。すでに「ベルシャザールの饗宴」などの大作を発表し、作曲家としての地位を確立していたウォルトンだったが、最初の交響曲には呻吟し、32年に着手しつつ貴志の協奏曲と同じ35年までかかっている。しかしその内容は充実したもので、初演時からイギリスを代表する傑作との呼び声が高かった。シベリウス的なダイナミズムを感じさせる第1楽章、パワフルに突き進む第2楽章に続き、分厚いオーケストレーションで描き出される第3楽章は重苦しくも抒情的で深い感興をもたらす。フィナーレでは勇壮なテーマが輝かしい大団円を導く。
日本とイギリスの若き作曲家たちの同時期の大作を、サービス精神旺盛な山田がゴージャスな装いのもとに届けてくれるはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年8月号より)
第743回 東京定期演奏会〈秋季〉
2022.9/2(金)19:00、9/3(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp