豪華3者対談!生誕90年の山本直純を語り尽くす!
山本純ノ介×山本祐ノ介×広上淳一 

写真左より:広上淳一、山本祐ノ介、山本純ノ介

聞き手・まとめ:柴田克彦
写真:編集部

 2022年は、作曲家&指揮者・山本直純の生誕90年・没後20年にあたる。CMやテレビ番組「オーケストラがやって来た」などを通してお茶の間でも人気を集めながら、クラシック音楽の普及に多大な貢献を果たした彼は、4000曲もの作品を残した“大”作曲家でもあった。

 今年の「フェスタサマーミューザ」では、奇しくも創立50周年が重なる新日本フィル(直純が小澤征爾と共に設立に参画した)の公演で、その作品が特集される。そこで、山本直純の長男・山本純ノ介(作曲家、大学教授)、次男・山本祐ノ介(チェロ奏者、指揮者、作・編曲家)、そして当公演の指揮者・広上淳一の三氏に、人物像や業績について語っていただいた。

—— 山本直純は、皆さんにとってどんな存在ですか? 

純ノ介 子供の時には、父としてよりもテレビの中の面白いおじさんといった印象が強かったですね。当時は取材が多くて、その時だけ家庭らしいやりとりをする(笑)。ただ音楽面では、「マグマ大使」のメロディにどういう和声を付けるか?といった話に感心したこともあります。大学時代からは鞄持ちを12年間やりましたが、「メシを作れ」と言われて夜中にラーメンを作ったり、先生というよりも師匠みたいな感じでした。

祐ノ介 僕は兄と6つ離れていることもあって、小さい時はほとんどすれ違い生活でした。ただ、もっと小さい時には家で仕事をしていて、朝になると徹夜したアシスタントの人たちが部屋で倒れているので、「何があったんだ?」と思ったこともありましたね。その後、音楽面も多少教わりましたし、チェロの奏法を訊かれたこともありましたが、仕事で一緒になったのは、僕が東京交響楽団(首席チェロ奏者)に入った後、そこに指揮しに来た時くらいです。

広上 間違いなく日本のバーンスタインのような存在。ただ、私はある演奏会の後の飲み会で初めてお会いし、「マグマ大使」の話などをして討ち死にした記憶があります(笑)。イメージとしては、滅茶苦茶かも知れないけど、今の時代に取り戻したい人。ご家族やアシスタントとの関係は、落語の師匠と弟子のようで、どこか温もりがあります。だから「男はつらいよ」のような音楽が書ける。今の時代にそういう人が生み出せなくなったのは、ちょっと寂しいなと思います。

—— 音楽的な凄さについてはいかがでしょう?

純ノ介 例えば劇伴の場合、「似て非なるものを書くのが一番難しい」という彼の言葉があるのですが、似ていながらちょっと違ったペーソスのある音楽を書いたことでしょうか。あとはリズム。よく「初めにリズムありき」と言っていました。大河ドラマの曲にも必ず一定のリズムが出てきますし、演奏する時もリズム感をとても大事にしていました。一般には「耳がよかった」ことが流布していますが、実はリズム感もすごくいい。体育系の力もあって、踊りもするし、タップダンスもなかなか素晴らしかった。しかもそれをできるまで何度も繰り返す。そんな粘り強さは、作曲にも音楽の表現にもありました。そうした「練習することが苦にならない」のも才能ですね。

広上 指揮者の立場で言うと、指揮法の実力がものすごくある人だったと思います。ふざけながら振っているように見えて、実は合理的に力が抜けている。その凄さは世界でも真似のできる人がいないくらい。もし世界のオーケストラの指揮台に立っていたら、売れっ子の指揮者になっていたかもしれません。でもとにかくもの凄く高いレベルでマルチでしたよね。

純ノ介 指揮法の話をすると、僕や祐ノ介をモデルにして「指揮法のABC」というビデオを作りましたが、齋藤秀雄先生の指揮法を直純流にアレンジした、なかなか貴重な内容でした。そういう教育も本当は体系的にできる人でしたので、技術的な本を残していないのが残念です。

祐ノ介 何かを残すよりも、時々のステージや現場など「今を楽しむ」ことに強い興味があったと思いますよ。

純ノ介 確かに現場が大好きでした。スタジオでインスパイアされて譜面を書き直したりすることもしょっちゅうありましたね。

祐ノ介 そういう時、時間を気にして妥協することがないし、皆が困っていることに対して無頓着。僕は親父を「小学校5年生の悪ガキ」と称していますが、人が何を考えているかわからないおかげで「やり過ぎること」ができる。そこが絶対に勝てない彼の才能だと思います。

—— さらに“作曲家・山本直純”に絞ってお話いただけますか、

祐ノ介 例えば「好きです かわさき 愛の街」は、短調で始まって、途中で長調になる。あれが真骨頂だと思いますね。僕が父に教わったことのひとつが「マーチで泣かせないとダメだ」。要するに長調で上を向きながら涙が出てくる……そういう美学があったような気がします。

純ノ介 悲しいシーンに明るいメロディを付けた時にどれだけ泣けるかが大事なんです。ただ、小さい時に英才教育を受けて、基本的な和声などの能力が整っていたのが、あの時代にはアドバンテージだったと思います。でもそこで止まることなく、新しい和声感などが生まれると自分のものにしていく。

祐ノ介 親父の昔の帳面を見ると、モード(旋法)を一生懸命勉強しています。例えば短調の導音をナチュラルにするといったことに凄い興味がある。彼の曲にはそんな箇所が必ずあって、その使い方が凄く上手い。しかもそうしたメロディが絶対に生きる和音をとことん追求しています。

広上 私は一ファンとして、お客さんが期待している隠し味がどの料理にも入っている直純レストランのシェフという印象があります。例えば「マグマ大使」にも子供が泣けるようなコードが付いている。当時理論的なことはわかっていないのですが、その音型がいまだに脳裏に焼き付いているのも、話をお伺いしていて合点がいきました。それから変なことをしない。自分を主張するために変な音を入れたりリズムを壊したりする作曲家もいますが、直純さんはモーツァルトに似ていて、どんなに現代音楽を知っていても、人が喜ぶ感性の部分を追求していたのではないでしょうか。心地よい部分を必ず残すことによって、聞く人をニコッとさせる。あるいは先ほど出た、悲しくても長調が入る。一番悲しい時は長調なんです。

純ノ介 長調の曲に悲しみの奥底と感性が一致する部分があることがよくわかっている。

広上 それは彼自身が非常にロマンチストで、愛情というものを深く考えていたからだと思います。

純ノ介 愛情ということで言うと、父はお母さんを早くに亡くしているので、母親の愛情をずっと探し求めていたような気がします。

祐ノ介 その意味で、「えんそく」という合唱曲は、まさしく自分の理想の家庭を託した曲ですね。

—— 「えんそく」の話が出たところで、今回の演目に関するお話を。

純ノ介 前半に演奏される「和楽器と管弦楽のためのカプリチオ」は、1963年にあの曲があったこと自体が凄い。でもそれを当時の現代曲の批評家たちは評価できなかった。

祐ノ介 あれは先ほど話した「天才的やり過ぎ」が高い芸術性を放っている曲ですよね。普通の人なら「これはマズいだろう」と思って書けないような要素が入っている。初演時のドラムスがフランキー堺(当時タレントとしても有名)だったのでドラム・ソロを入れていますし、太鼓などにアドリブもさせています。

純ノ介 1963年に作ったこの異色の作品の中に、その後の劇伴のエッセンスが全部入っている。なので「カプリチオ」は山本直純の原点のような気がします。

祐ノ介 途中で弦楽合奏の美しい部分があるのですが、そこは涙が出るほど美しい。そういう面と「やり過ぎ」の部分が共存しているのが、この曲のたまらない魅力だと思います。

広上 1曲目の「シンフォニック・バラード」は大作ですね。おふざけの部分も少しだけありますが、私から見れば全部がシリアス。日本人は、愛情ある皮肉やウィットとそうでない場合の違いがわからず、一見ふざけた部分があると、「あいつはふざけている」とそのまま受け取ってしまう危険性がある。そうした部分の本質をついた演奏をしていけば楽しいのではないかと思います。

純ノ介 2つ演奏される合唱曲で言えば、「えんそく」は明るい感じで、「田園・わが愛」はしんみりした、東北の味わいがあります。この曲は寺山修司さんの詩と親父の音楽が対峙する部分が面白いので、そのミックスがどうなるかをぜひ聴いていただきたいですね。

広上 祐ノ介さんが編曲した「童謡メドレー」(同曲のみ祐ノ介が指揮)、お馴染みの曲が並ぶ「CMソング、TV/ラジオ番組」メドレー」は、直純さんの一つの側面ですね。今回一番大事なのは、山本直純という偉人が残した素敵な作品の数々をお客様に紹介できること。そうするとまた広がっていきますから。

—— 本日は長時間ありがとうございました。公演が楽しみです。

※本公演は、指揮者 広上淳一が出演できなくなったため、代わって梅田俊明が出演します(7/29主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
指揮者変更のお知らせ【7/30更新】

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
新日本フィルハーモニー交響楽団
山本直純生誕90年と新日本フィル創立50年を祝う!

2022.8/3(水)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

(14:20~14:40 プレトーク)

指揮:広上淳一
合唱:東京音楽大学合唱団有志
和楽器:田村法子(筝)、野澤徹也(三味線)、石垣征山(尺八)、望月太喜之丞・富田慎平・長田伸一郎(邦楽打楽器) 他

<本当はマジメな天才、直純さん> 
◆シンフォニック・バラード(新日本フィル委嘱1983年)
◆和楽器と管弦楽のためのカプリチオ(日本フィル委嘱1962年)
<歌が大好きだった直純さん>
◆児童合唱とオーケストラのための組曲『えんそく』(抜粋)
◆田園、わが愛から ふるさと 他(抜粋)
◆童謡メドレー(山本祐ノ介編曲)
1年生になったら~こぶたぬきつねこ~おーい海~歌えバンバン
<才能のデパート、直純ファミリーの音楽をご紹介>
山本正美:Spring has come
<テレビや色々なところで大活躍した直純さん>
◆白銀の栄光(札幌オリンピック入場曲1972年)
◆NHK大河ドラマ「武田信玄」テーマ曲(1988年)
◆CMソング、TV/ラジオ番組メドレー(山本祐ノ介編曲)
森永チョコレート~サントリー純生~8時だよ!全員集合~マグマ大使~3時のあなた~小沢昭一の小沢昭一的こころ~ミュージック・フェア~男はつらいよ

特集:フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
今年も真夏のオーケストラの祭典がやってくる。首都圏から9つのオーケストラが参加し、関西からは尾高忠明率いる大阪フィルが初登場となる。加えておなじみのこどもフェスタや真夏のバッハ、サマーナイト・ジャズなど全19公演がラインナップされた。注目は、今年創立50周年を迎える新日本フィルが、楽団立ち上げにも関わった山本直純を特集する。また、昨年亡くなったジャズ界の巨匠チック・コリアのトリビュートには、クラリネットの世界的奏者リチャード・ストルツマンが出演。そしてこれらの豪華公演はすべてライブ配信され、8月中はアーカイブで何回も観ることができる。コンサート会場で体感し、配信でその感動を再体験。多彩な楽しみ方で満喫したい。