フンメルの協奏曲は、輝きと哀しみのギャップが魅力です
ローム ミュージック ファンデーションが支援した音楽家(ローム ミュージック フレンズ)が出演する「ローム ミュージック フェスティバル2022」が、4月23日と24日にロームシアター京都で開催される。2016年に始まった同企画は今年で6回目。メイン、サウスの両ホールで計5つの有観客公演が行われ、全公演でライブのオンライン配信と1週間のアーカイブ配信がなされる。
初日に行われる「オーケストラ コンサート Ⅰ」(メインホール)でソリストを務めるのが、NHK交響楽団首席トランペット奏者の菊本和昭。同フェスティバルには2018年サウスホールでのブラス・アンサンブル以来2度目の出演となる。
彼は元々、京都にゆかりが深い。
「高校、大学と京都で学び、京都市交響楽団に約7年間在籍した後にN響に移籍しました。15歳から30歳の間ですから、京都で人間形成をしたと言っても過言ではありません。ただメインホールでの演奏は現ホールが京都会館だった時代に高校吹奏楽部の公演で吹いて以来23年ぶり。ロームさんのおかげで生まれ変わったホールでの初演奏が実に楽しみです」
ロームの支援を受けたのは2008年ドイツ留学の時だという。
「京響を1年休んで留学する際、奨学生に応募し、ご支援いただくことになりました。当時は記録的なユーロ高でしたから生活が大変。ですので本当に助かりました」
フェスティバル自体への思いも強い。
「まずはこうした晴れやかな舞台を用意してくださるロームさんに心から感謝しています。それに今年の内容も素晴らしいですね。新日本フィルハーモニー交響楽団が『ティル・オイレンシュピーゲル』の後に『巨人』を演奏する『オーケストラ コンサート Ⅱ』は贅沢なプログラムですし、木管五重奏と金管五重奏による『リレー コンサート C』は親しみやすい名曲揃い。萩原麻未さん、岡本麻子さんやヴァイオリンの名手4人とピアニストが出演する『リレー コンサート A、B』も豪華です。さらに『オーケストラ コンサート Ⅰ』は、私の出番がモーツァルトのクラリネット協奏曲(ソロ:吉田誠)とチャイコフスキーのロココ変奏曲(ソロ:横坂源)に挟まれていますから、珠玉の名作をお楽しみいただけます」
菊本の演目はフンメルの協奏曲。「トランペット奏者には必須の」名曲だ。
「ソロ楽器としてのトランペットの魅力がお伝えできて、他の2作との違和感がない曲ということで選びました。ネルーダ、ハイドン、フンメルの作品がトランペットの三大古典協奏曲と呼ばれたりしますが、ネルーダは元々ホルン協奏曲で、ハイドンは古典派ど真ん中の作品。でもフンメルはロマン派に若干足を踏み入れている。ハイドンの古典的な部分を踏まえた上で、和声や調性などが少し先に進んでおり、“哀しい美しさ”があります」
フンメルをオーケストラと共演するのは「今回が3度目」。意外に貴重な機会だ。ただ「学生時代から勉強はしている」し、この時代のナチュラル・トランペットを吹いてみたこともあるとの由。
「この曲はナチュラル・トランペットに木管楽器のようにキィを付けた『キィ・トランペット』のために作曲されました。楽器の構造上、半音階が演奏可能になった反面、音にムラが出ることによってその後その存在が歴史に埋もれていきました。ですので、今回も現代楽器のE管で演奏します。とはいえ大元のナチュラル・トランペットを勉強すると、当時の演奏法がわかり、現代の楽器に応用することができます」
曲調も魅力十分だ。
「曲の調性が、明暗の対比がはっきりしやすいホ長調のため、第1、第3楽章はとても輝かしい音楽になっています。しかし第2楽章の絶妙な調性の扱いと暗さにはグッときますし、第3楽章の途中で短調になる部分がものすごく好きで、転調したとたんに引き寄せられます。輝かしさだけでなく陰もある。そうした振り幅が魅力ですね」
なお、指揮は角田鋼亮、管弦楽は菊本にとって「18年ぶり2度目の共演となる」新日本フィル。このコラボも注目度が高い。
「今回は故郷に錦を飾るような気持ちでいます。多くの演奏家を支援されているロームさんのフェスティバルで協奏曲を演奏できるのは、大変光栄であり、楽しみであり、緊張もしています。配信を含めた幅広いお客様に愉しいひとときをお届けできるよう全力を尽くしますので、ぜひご来場、ご視聴ください」
話を聞くだに、必ずや耳にしたいと強く思う。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年4月号より)
【Profile】
NHK交響楽団首席トランペット奏者(2012年〜)。京都市立芸術大学首席卒業、同大学院首席修了。フライブルク音楽大学、カールスルーエ音楽大学にて学ぶ。2004年より約7年間京都市交響楽団に在籍。日本管打楽器コンクール第1位、日本音楽コンクール第1位及び増沢賞、リエクサ国際トランペット・コンクール第3位、エルスワース・スミス国際トランペット・ソロ・コンペティション第2位及びChosen Vale賞他受賞多数。トランペットを早坂宏明、有馬純昭、A.プログ、E.アントニー、R.フリードリヒ、Dr.E.H.タール、K.ブレーカー、L.ヴコブラトヴィッチ各氏に師事。また、室内楽を呉信一氏に師事。
【Information】配信あり
ローム ミュージック フェスティバル2022
2022.4/23(土)、4/24(日) ロームシアター京都
オーケストラ コンサート Ⅰ
木・金・弦 3人の名手による協奏曲の祭典
2022.4/23(土)18:30 ロームシアター京都 メインホール
出演/角田鋼亮 (指揮)、吉田 誠 (クラリネット)、菊本和昭 (トランペット)、横坂 源 (チェロ)、新日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)、朝岡 聡 (ナビゲーター)
曲目/モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》K.527より序曲、クラリネット協奏曲 イ長調 K.622(吉田)
フンメル:トランペット協奏曲 ホ長調(菊本)
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲 イ長調 op.33(横坂)
問:エラート音楽事務所075-751-0617
https://micro.rohm.com/jp/rmf/activity/rmfes/2022/
https://curtaincall.media(配信)
※「ローム ミュージック フェスティバル2022」の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。