テーマは「クロッシング」、近藤良平・彩の国さいたま芸術劇場芸術監督が始動!

 振付家・ダンサーの近藤良平が2022年4月より、彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任する。これに先立ち2月14日、同劇場で芸術監督就任記者会見と2022年度ラインナップ発表が行われた。
(2022.2/14 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール Photo:J.Otsuka/Bravo)

中央:近藤良平(彩の国さいたま芸術劇場 芸術監督)

 彩の国さいたま芸術劇場は1994年の開館以来、舞台芸術専門劇場として、シェイクスピア演劇からクラシック音楽、世界トップクラスのコンテンポラリー・ダンス公演まで、多彩な舞台を上演してきた。そのなかで近藤も、自身が主宰するコンドルズの埼玉新作公演を2006年より上演。また埼玉県と共働して障がい者によるダンスチーム「ハンドルズ」の公演を行うなど、同劇場と関わりを深めてきた。

 今回の芸術監督就任は、初代の諸井誠(作曲家・音楽評論家)、前任の蜷川幸雄(演出家)に継ぐもの。同劇場と埼玉会館を運営する埼玉県芸術文化振興財団の加藤容一理事長は、「近藤監督のもと事業を進めていく上で、『ART FOR LIFE 〜すべての人生に芸術を』を掲げて、多くの方に芸術文化を届けていきたい」と語る。芸術監督の任期は現時点で1期3年間を予定としているが、長期的な構想を考えていることも示唆した。

 近藤はすでに21年4月より、次期芸術監督として劇場の方向性やプログラムの策定に関わってきた。
「この劇場を引っ張っていく中で、諸井誠さん、蜷川幸雄さんが遺されたものは非常に大きく、我々に素敵な記憶と作品を与えてくださいました。僕もそのことを心に受け止めて、引き継いでいきたいと思います。
 そして僕はダンスが専門です。これまで必死に踊ってきましたが、ダンスには社会を変えていく力があると思い、いま、ダンスと真剣に向き合って日々過ごしています。ダンスが与える力を利用して、楽しい芸術の場を提供していきたい。また劇場の中で繰り広げられることがただの“発表”の場だけではなく、ここで交流し発想を生む。劇場にはサンクチュアリ(保護区)の役割もあると思いますので、その力を発揮したいと考えています。
 これから発表するラインナップも含めて夢を語っています。みなさんと夢を共有して、この場所で夢を感じていただきたい」

左:加藤容一(埼玉県芸術文化振興財団 理事長) 

 新体制がスタートするにあたり掲げたテーマは「クロッシング(交差する)」。 そこには「ジャンルを超えた様々なアーティストが交流し合い、考え、想像していく」「多くの人が出会い、クロスする場所」「地域間やオンライン上など、場所やネットワークなどを含めたところでの交流」と、3つの意味を持たせているという。

 2022年度のラインナップのうち「クロッシング」のコンセプトを体現する作品としては、まず就任第1作目となる「ジャンル・クロスⅠ 近藤良平 with 長塚圭史『新世界』」。近藤自身が演出・振付、演出家の長塚圭史が演出補をそれぞれ担当(さらに出演も)し、サーカスやダンス、演劇、音楽が加わり「新しい形の舞台」になるという。7月には「ジャンル・クロス」第2弾として松井周脚本、近藤演出で『導かれるように間違う』を。6月には「メンバー自体がジャンル・クロス」と語る、コンドルズの15作目となる埼玉新作公演『Starting Over』を上演する。

 8月には、昨年に引き続きの開催となるオープンシアター「ダンスのある星に生まれて2022」で、「ダンスの視点から、より人々が劇場に親しめる場所」を提供する。また同劇場は今年10月から大規模改修に入るため(24年2月末まで)、アーティストが埼玉県内各地を巡るキャラバン企画「埼玉回遊」を始めるという。

 「埼玉という場所の可能性、出逢い、文化の広がり方、僕自身もまだ分からないことがありますが、地域とより繋がれる作品創りのためのワークショップをしていきたい。他劇場や商店街、川縁、公園など、表現できるあらゆる場所を探して、『人々が行き交う』『地域と繋ぐ』の理念のもと模索していきます」と現時点での構想を語った。


 演劇では、2020年2月にコロナの影響で一部公演が中止となった彩の国シェイクスピア・シリーズ 第35弾『ヘンリー八世』が再演されるほか、ノゾエ征爾や藤田貴大などいま果敢に作品創りをしている作家たちの作品も予定している。また、蜷川のもと「さいたまネクスト・シアター」「さいたまゴールド・シアター」といった試みを具現化してきたが、次なる“新しいシアターグループ構想”も考えているという。
「どういう形でやるのが今の時代にふさわしいのか考えています。作品を創る糸口はいろんなところにあります。できるだけ他世代や他ジャンルと交流できるシアター・グループを作り、そこから生まれてくる表現の場を考えたい」

 ダンスでは、6月にディミトリス・パパイオアヌーの新作、11月には名作と言われているマギー・マランの『MayB』を上演するほか、さいたまダンス・ラボラトリ企画、さらに若手の新作上演の機会をつくる。音楽では、ピアノ・エトワール・シリーズやバッハ・コレギウム・ジャパンの公演などに加え、音楽ホールの特性を活かしたプログラムや、ジャンルを超えたところで楽しめる企画を予定している。
 
 最後に近藤は、「近年、実際に劇場がストップするという考えられないようなことが起きましたが、劇場は人が行き交わないと存在しません。ワクワクするような舞台を観に行くことを思い描くこと自体もすごく大事です。劇場が遠いものではなく当たり前のように存在し、そのきっかけとしてこの劇場が存在し、舞台を観て、参加して、会話する、人々にとって“日常の劇場”となれば」と想いを語った。

彩の国さいたま芸術劇場
https://www.saf.or.jp/arthall/
埼玉県芸術文化振興財団
https://www.saf.or.jp

*2022年度ラインナップの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。