聞き手・まとめ:飯田有抄
年の瀬の12月30日、同世代の人気アーティストである反田恭平さん、小林愛実さん、務川慧悟さん、岡本誠司さんの4名にお集まりいただきました。ご存じのとおり、2021年は4名ともに国際コンクールで目覚ましい結果を残し、大いに注目を集める年となりました。音楽仲間として日頃から親しい皆さんですが、日本のみならず世界の音楽シーンを牽引していく存在となり得るアーティストでもあります。2021年のコンクールを振り返りながら、今後の展望などについて、ざっくばらんに語り合ってもらいました。
これから3回に分けてお届けします。初回は、プロローグ。皆さんの間柄がわかるような会話からスタートです。
*それぞれの2021年のコンクール*
5月 務川慧悟さん:エリザベート王妃国際音楽コンクール・ピアノ部門第3位
9月 岡本誠司さん:ARDミュンヘン国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門第1位
10月 小林愛実さん:ショパン国際ピアノコンクール第4位
10月 反田恭平さん:ショパン国際ピアノコンクール第2位
🎼 コンクールは、自分の弱さや強さに気づく場所
── まずはそれぞれのコンクールについて振り返っていただきたいと思います。せっかくお集まりいただいた機会ですので、お互いにどうサポートしていたとか、お互いの演奏をどんなふうに聴いていたとか、また、コンクール後の変化などについて伺ってみたいです。
まず、5月にエリザベートに出られた務川さん、いかがでしょうか?
務川 僕はエリザベートで1次と2次の審査が終わったとき、どちらも一番に電話したのは反田でしたね。1次は終わって楽屋に戻った瞬間、すぐでした。実は少しへこんでたんです。演奏の配信が終わって1分後ぐらいだったから、電話に出た反田が「あ、配信のひとだ」って(笑)
反田 電話の向こうから、次の人の演奏が聞こえてくるんで、すごくリアルだった。もう純粋に「良かったよ」という感想を伝えたし、心配させないのがやっぱりベストだと思うし、「なんであそこ、ああしちゃったの」なんていうのは言わなくていいかなと。いやでも、実際に素晴らしかったですからね。
岡本 やっぱりコンクール中って自分の目標を高く設定して臨んでいるので、どうしても自分の演奏に対してネガティブになったり、落ち込みやすいんですよね。そういうときに信頼する人と話せると、きついコンクール期間中も必要以上にネガティブにならずに済みますね。
小林 私も配信をずっと見て応援してました。すごい早朝じゃなかった? 朝6時とかに起きて見てた。
務川 そうそう、早かったよね。
── 務川さんは2019年のロン=ティボー=クレスパン国際コンクールでも第2位になられ、やはり大きな注目を集めるようになったと思いますが、変化などは感じますか?
小林 友だちとして見ていて、務川くんはとくに変わらないね。変わってほしくないな。優しくてちょっとおっとりしていて。このままで突き進んでほしい。
反田 知り合った18歳の頃から変わってない。ちょっとコーヒーとワインに詳しくなったかな。もう10年近くの付き合いなので、一緒にワインを飲みに行ったりとかするような関係になったっていうのが、変化かな。
小林 私と務川くんは、もうワインが飲める年齢になってから知り合ったから、パリでよく飲んでいたかな。
務川 ワインのある席でしかお話してこなかったかもね(笑)
小林 ワインを飲んでも、そんなに変わらないよね。ちょっと笑顔になって、ちょっとスムーズに言葉が出るくらいで、楽しくなるね。
反田 僕以外の3人はお酒強いからね。鬼はここなんですけど(岡本さんを指差して)
岡本 いやいや(笑)
反田 他人に強要しない人たちで良かったなって(笑)僕が一番弱いんでね、このなかで。
小林 でも最近強くなったよね。
反田 3人とも詳しいし、いろいろと教えてもらって。こういう世界あるなっていうのを知ることができて、大人になったのかなぁとは思いますね。
── “鬼”の岡本さんから反田さんに教えてさしあげることも多い?
岡本 いやいやそんな、教えるとか大したものがあるわけじゃないですけれども、やっぱりいろいろな味だったりね、何年も寝かせたものとかは、その分の時間を楽しむものでもあると思うし、いいものですよね。
小林 あれ? なんの会だっけ、これ(笑)
── いきなり話題が逸れつつありますが(苦笑)、でも音楽家にはお酒やお料理に詳しい方多いですね。
反田 みんな美食家だよね。舌は肥えてきたね。
岡本 やっぱり何かしら、みんな自分の感性、好みやこだわりみたいなものがあるから、そんな話をしながら一緒にお酒を飲むのもやっぱり楽しい。美味しい料理を前に音楽と離れた部分で、そういうトークができる仲間がいるのは楽しいですね。
── では、そんな岡本さんについて、皆さんから見ていて、岡本さんがARDミュンヘン国際音楽コンクール優勝後に生活や雰囲気が変わっちゃったね、とかはありますか?
反田 いやないですね。彼も変わらないですね、もちろん音楽的には成長しているけど、大事な根本的な部分というか、ある種の童心的な部分も含めて変わらないところはある。彼と出会ったのも17歳ぐらいなんですけど、20歳でバッハ国際コンクールで優勝したときは、僕の母校(桐朋学園大学)がある仙川駅では電車の広告に、「岡本誠司優勝!」っていうのが出ていて、すげえなぁって。同い年だから他校(※岡本さんは東京藝術大学)の人でも、アイツちょっと元気だよ、みたいに話題が広まりますからね。その中で共演する機会があって……
岡本 2016年かな。
反田 ピンと直感じゃないけど、これだけじゃ終わらないなっていうのを感じて、また一緒に弾こうね、って言ってました。今こうやってジャパン・ナショナル・オーケストラ(以下JNO)を作って一緒に活動したり、CD作ったりしているんですけど、やっぱり基本的に彼の潜在能力が変わらずにいるのは魅力でもありますね。
岡本 コンクールは、本当にいろんな捉え方ができるものですし、例えば自分の弱さだったり、あるいは強さに気づく場所でもあると思います。自分を見つめ直す機会にもなりました。確かに周りからの見られ方は変わることはありますけど、自分が日々やることは、コンクールで賞をもらったからといって、ガラっと変わるわけではないですしね。
反田 ドイツに行って、何年ぐらいになるのかな。
岡本 4年以上は経ったかな。
反田 でも、演奏を聴いていると、もう10年以上住んでるんじゃないかみたいな。
岡本 確かに、濃い4年を過ごした。
反田 帰国してくることにパワーアップしてるから、すごく嬉しいですね。
(Vol.2につづく)