森武大和(コントラバス) from ウィーン(オーストリア)
海の向こうの音楽家 vol.9

ぶらあぼONLINE新コーナー:海の向こうの音楽家
テレビなどで海外オケのコンサートを見ていると「あれ、このひと日本人かな?」と思うことがよくありますよね。国内ではあまり名前を知られていなくとも、海外を拠点に活動する音楽家はたくさんいます。勝手が違う異国の地で、生活に不自由を感じることもたくさんあるはず。でもすベては芸術のため。このコーナーでは、そんな海外で暮らし、活動に打ち込む芸術家のリアルをご紹介していきます。
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 当連載で初めてオーストリアからレポートしてくれるのは、ウィーン放送交響楽団(RSO Wien)コントラバス奏者として活躍する森武大和(もりたけ・やまと)さん。12月14日には、東京オペラシティのB→Cシリーズに出演予定。コントラバスには「チェロには出せない低音楽器の魅力がある」と語ります。
 ウィーンのオーケストラは楽器も独特で、伝統的な奏法もドイツとは一味違うようです。充実した毎日を送っている様子の森武さんによる、RSOへの愛にあふれたレポートをぜひお読みください!

文・写真提供:森武大和

ウィーン楽友協会でのリハーサル風景 ©RSO
楽友協会はいつも雰囲気が素敵です

 僕がいま勤めているウィーン放送交響楽団 Radio-Symphonieorchester Wien(RSO Wien) は、保守的なウィーンの中では比較的リベラルな気質で、メンバーの皆さんの温かい雰囲気がとても気に入っています。リハーサル中にふと何気なくオーケストラ全体を見渡してみても、本当に素敵な同僚ばかりでいつも嬉しい気持ちになります。仕事場である国営放送局の方々もやはり皆親切で、僕が試用期間に合格した際も、オーケストラのメンバーも全員が一人ずつお祝いの言葉をかけにきて下さいましたし、食堂のおじさんおばさんまでが心から喜んで下さいました。こんな仕事場なので出勤がとても楽しく、また24時間いつでも練習できるので、毎日殆ど放送局に入り浸っていて、それ以外の時間は美術館や図書館、蝶々園、スイーツめぐりなどをして過ごしています。すべての美術館の年間パスを持っているので、練習の合間に気に入った絵画を一枚だけ見たり、美術館の中で昼寝したり…なんてことができるのも、この街ならではかもしれません。

優秀で親切な事務局とステマネの皆様。いつも演奏会を支えて下さっています。

 ウィーン放送交響楽団はウィーンのオーケストラの中で一番レパートリーが広く、交響曲からオペラ、現代曲までなんでもこなします。そんなの当たり前、と思うかもしれませんが、ここではウィーン式の楽器が主流なので、現代曲に対応できるオーケストラは実はまれなのです。ウィーン式の楽器は仕組みも音色も独特で、音楽大学で教わる音色や、ひいてはオーケストラ全体のサウンドもドイツとは全然違うので、弦楽器でも管楽器でも、ウィーンで勉強した学生はドイツのオーケストラ・オーデションに招待されないこともけっこう多く有ります。逆に、ドイツの音大生にはオーストリアからの招待状は来るので、留学先は将来の目指す方向をよく考えて慎重に決めたほうが良いかもしれません。

定年退職される方は皆で盛大にお祝いします。
退職時には団員から温かい拍手と記念品が贈られます。
退職パーティーも盛大。

 話が逸れましたね。楽器の話に戻ります。例えばティンパニはドイツや日本で主流のペダルで音程を変えるタイプは使わず、ヤギの皮を張った弾けるような音の手回しハンドル式だし、ホルンも見慣れたロータリーではなく、今ではめっきり製作者が減ったウィーンバルブ式なので演奏できるレパートリーに制限が出てきてしまうのです。ウィーンでの楽器製作者不足を救うために我らがヤマハが苦心の末に素晴らしいウィーンホルンを製作し、ウィーンフィルのメンバーも大変感謝しているそうです。

ウィーン式ティンパニ。張りのある音色が素敵です。 ©RSO

 また話が逸れました。さて、そんなわけで古典から現代曲まで得意としている我がウィーン放送交響楽団は、アンサンブルの仕方も縦の線やタイミングを、良くも悪くもきっちり合わせ過ぎる傾向があります。例えば歌劇場のオーケストラは歌手を待ちながら演奏するので、タイミングを微妙に少しだけ遅くずらしたり、縦線をぼかして横の流れで演奏しています。こうすると、コンサートホールに比べて比較的残響の少ないオペラ座でも響きの多いリッチなサウンドになります。我がウィーン放送響はこの『ずらし』が苦手なので、オペラを演奏すると揃いすぎていてオペラらしからぬ響きになりますが、その分独自の強みを生かし、ややこしい曲や超難しい曲の演奏を一手に引き受けているような節があり、レパートリーに飽きることはありません。この素敵な街にあって、伝統的な音色と近代的な機能性を併せ持つこの楽団、観客として演奏を聴いても毎回とても感動するし、ますます仲間を誇りに感じるのです。

Concert Information
東京オペラシティ B→C バッハからコンテンポラリーへ 237 森武大和(コントラバス)
2021.12/14(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール


グラス:ティシュー第7番(2002)
J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番 BWV1027
ハウタ=アホ:カデンツァ(1978)
小室昌広:Depends on BACH(2021、森武大和委嘱、世界初演)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 BWV1007
ゲッダ:痛みの錬金術(2014)
プロト:ソナタ1963(1963)

共演:高橋朋子(ピアノ)

問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=14377

(c) Masaki Uotani

森武大和(コントラバス) Yamato Moritake
 ウィーン放送交響楽団コントラバス奏者、上オーストリア音楽学校教師。15歳でコントラバスを始める。
 東京藝術大学を卒業後、ミュンヘン音楽大学マイスタークラス及びブルックナー音楽大学マスタークラスに学び、満場一致の最高点で卒業。バイエルン放送交響楽団アカデミー生、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団契約団員、リンツ・ブルックナー交響楽団正団員ならび同団契約首席奏者を経て、2018年よりウィーン放送交響楽団へ入団し、試用期間を満票で合格。コントラバス奏者としての活動の傍ら、エレクトリックベースを独学で学び、デニス・ラッセル・デイビス、ブルックナー交響楽団と共にソリストとしてウィーン楽友協会大ホールにデビューする。山本修、永島義男、西田直文、ハインリッヒ・ブラウン、アントン・シャッヘンホーファー、ヘルベルト・マイヤー各氏に師事。
 ヤマハ留学支援制度、ユー国際文化交流支援基金奨学生。演奏の傍ら、執筆活動や音楽学研究も積極的に行い、ウィーン調弦とコントラバスの歴史に関する論文でオーストリア国営放送ラジオでインタビューを受ける。ウィーンを始めヨーロッパ各地でリサイタルを開催し好評を博している他、オーストリア各地で災害被災者や小児癌、難民支援などの慈善コンサートを定期的に主催している。チェコ・シマンドル国際コントラバスコンクール第1位並びフッカ特別賞受賞。

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