トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は日本フィルハーモニー交響楽団の登場です。
今回お集まりいただいたのは、オーボエ首席の杉原由希子さん、クラリネット副首席の楠木慶さん、ファゴット副首席の田吉佑久子さん、そしてホルン首席の信末碩才さんの4名。まさに日本フィル・管楽器セクションの屋台骨を支える皆さんです!
9月から首席指揮者にカーチュン・ウォンを迎え、新たな第一歩を踏み出した日本フィル。今回は、10月から新たにスタートする室内楽シリーズのお話を中心にお届けします。
オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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Vol.1 オケマンにとっての“室内楽”とは?
――楽器を始めたきっかけは?
杉原 私は中学校から吹奏楽部でオーボエを始めて。吹奏楽コンクールの県大会で演奏した神奈川県民ホールは、今でも思い出の場所なんです。
田吉 初めて聞いた、その話!
信末 吹奏楽部のイメージはなかったです、意外な一面…
楠木 何人ぐらいの部活だったんですか?
杉原 正確には覚えてないけど、A組※で出られるくらい。しかも実は私、部長だったの。
部長が舞台上の台にあがって、コンクールの結果を聞くじゃない。
その時は銀賞で。悔しすぎて、袖にはけるまで我慢できずに涙が溢れちゃって。
※全日本吹奏楽コンクールは団体の人数に応じて部門が分けられている
A組は大編成(中学校では50人以内)の団体が出場できる部門
楠木 その姿は目に浮かぶかも…(笑) 部長ということは、「みんなもっと挨拶しようよ!」みたいな活動もしてたんですか?
杉原 うん。しかも鬼部長で、たるんでる後輩には厳しく接してたかも。
楠木 なんかいいですね(笑)
信末 僕たちも今ちょっとリラックスしてましたけど、身が引き締まりましたね(笑)
杉原 (笑)
楠木 今度、日本フィルの新しい企画に出るらしいですね。
杉原 10月の「横浜アンサンブル・ワンダーランド」という企画です。チェロの佐藤晴真さんをゲストに迎えます。
楠木 杉原さんの出身も横浜なんですよね。
杉原 そう。私、観光大使になりたいぐらい横浜のこと大好きなんです。
楠木 公演の時も「ハマっ子です!」ってアピールしないと(笑)
佐藤さん以外はどんなメンバーなんですか?
杉原 唯一の同級生のこなちゃん(ヴィオラの小中澤基道さん)。日本フィルで同じ生まれ年の人、彼しかいないんですよ。
あとはヴァイオリンの伊藤太郎さんと末廣紗弓さん(vn)、フレッシュな2人を推薦しました。このメンバーでアンサンブルをするのは初めて。佐藤晴真さんもソリストでしか共演したことがないです。
楠木 この間の日本フィルの九州公演の「ロココ」※でも来てくださいましたね。
※チャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」
信末 去年の原田幸一郎さん指揮のハイドンの1番もそうですね、モーツァルトの交響曲40番と組み合わせたときの。
――佐藤さんは来年の横浜定期にもソリストとして出演されます。
杉原 井上道義さんとショスタコの2番! 佐藤さんは日本フィルに定期的に来てくれていますね。
杉原 今回取り上げるフィンジの「オーボエと弦楽四重奏のための間奏曲」はずっとやりたかった曲で。これ、実はすごく暗い曲なんです。
信末 フィンジって明るい調性の曲でも、ちょっとダークな感じの響きがするじゃないですか。そういうところに魅力がありますよね。
杉原 そう。調べたんですけど、フィンジは戦争で自分の尊敬していた師匠を亡くして。その後立て続けに父親も亡くなって、それがずっと生涯、影を落としていた。
信末 闇を抱えるには十分すぎるエピソードですからね。
杉原 その上都会が好きじゃなかったので、田舎に引っ越したんです。絶滅寸前のリンゴの株を救ったりとか、自然愛がすごかった。
一同 へぇ~
杉原 他の曲でも、例えば下野竜也さんと今年の6月に演奏した弦楽器の「前奏曲」とか。すごく穏やかで優しい部分もありながら、人間の悲しさも持ち合わせてますよね。
でも今回の曲は本当にずっと暗い。終わりも、『死ぬときは最後1人なんだな』みたいなことを感じるような。
楠木 それでも今回演奏しようと思ったのはなぜなんですか?
杉原 うーん… やっぱり、兼ねてからやりたかったから。企画の方にも「この曲、本当に暗いんですけど、やっていいですか?」って聞いたんですけど、「いいんです、やりたいならやりましょう!」って快諾していただいて。
田吉 室内楽は団員のみんなもずっとやりたがってたからね。やっとこういう企画が実現したのは、正直に嬉しいですね。
杉原 本当に。特に弦と管が混ざるっていうのがなかなか少なくて。
信末 ベートーヴェンとかシューベルトとかもやりたいですよね。あとシュポアの大九重奏曲とか。
――この室内楽の企画は今後も継続的に実施していく予定ですので!
一同 ぜひ!
信末 定期と同じ頻度で、年十回ぐらいでお願いします(笑)
――室内楽を演奏することは、日ごろオーケストラで活動されている皆さんにはどんな意味を持つんでしょうか?
楠木 さっき山田マエストロ※も言ってたけど、室内楽的なアプローチってオケでも必要なんですよ。
※この収録は山田和樹さん指揮・第753回東京定期演奏会の前日リハーサルの直後に行いました。
杉原 集団になると、人任せになってしまうんですよね。
信末 責任を他人に押し付けてしまえる部分もあるので、「私はやんなくても大丈夫」とか。
杉原 オケには教育的な影響もありますよね。「人より先に出ちゃいけない」とか、「この打点で絶対合わせなきゃいけない」とか。積極的に自分からアプローチするっていうのがご法度とされた時代もありましたし。
でも、山田さんやカーチュンもそうだけど、「もっとフレキシブルに演奏してこい!」って求めてくる指揮者が増えてきた。私たちとしてはすごくやりやすいです。「やっていいんだ」って。
室内楽のように小編成になると、みんなが自由にアイディアを出し合って、ディスカッションして、まとめて、ということができるので、より自由度が増して楽しいって思いますね。
一同 (頷く)
(vol.2へつづく)
横浜アンサンブル・ワンダーランド
日本フィル with 佐藤晴真
2023.10/18(水)13:30 横浜みなとみらいホール(小)
〈出演〉
スペシャルゲスト
チェロ:佐藤晴真
日本フィル・メンバー
オーボエ:杉原由希子
ヴァイオリン:伊藤太郎
ヴァイオリン:末廣紗弓
ヴィオラ:小中澤基道
〈プログラム〉
第一部 コンサート(約60分)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007より プレリュード、サラバンド、メヌエット1&2、ジーグ(佐藤晴真独奏)
ハイドン:弦楽四重奏曲《皇帝》 ハ長調 op.76-3より第2楽章
バーバー:弦楽四重奏曲 変ロ長調 op.11より第2楽章
ブリテン:無伴奏チェロ組曲第1番 op.72より カントI、フーガ、ラメント、カントII、ボルドーネ、モルト・ペルぺトゥオ 〜 カント(佐藤晴真独奏)
フィンジ:オーボエと弦楽四重奏のための間奏曲 op.21
モーツァルト:オーボエ五重奏曲 K.406より 第2、4楽章
第二部 トークイベント(約30分)
第397回横浜定期演奏会(2024.5/18)にソリストとして出演する佐藤晴真さんと日本フィルのメンバーによるスペシャルトーク。
問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp
杉原由希子 Yukiko Sugihara
神奈川県横浜市出身。愛知県立芸術大学音楽学部卒業。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。第99回高校生国際コンクールにて第3位入賞。第76回日本音楽コンクール入選。
2015年、2020年にはモーツァルト(小林研一郎指揮)、2021年にはR.シュトラウス(カーチュン・ウォン指揮)のオーボエ協奏曲を日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2016年アフィニス文化財団の海外研修員として、ドイツのマンハイム音楽大学へ留学。エマニュエル・アビュール氏のもと、ソロ、室内楽、オーケストラを学ぶ。また室内楽では木管五重奏団『アミューズクインテット』メンバーとして日本各地に赴き演奏活動を行っている。
現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席オーボエ奏者、ビュッフェ•クランポン•ジャパン登録講師。これまでにオーボエを和久井仁、古部賢一、浦丈彦、小畑善昭、青山聖樹、エマニュエル・アビュールの各氏に師事。
楠木慶 Kei Kusunoki
広島県出身。2013年東京藝術大学卒業。2014年日本フィルハーモニー交響楽団に入団、現在、副首席奏者を務める。
第33回日本管打楽器コンクール第2位。クラリネットを武安宏子、堀川千影、山本正治、三界秀実、ティモシー・カーターの各氏に、室内楽を三ツ石潤司氏に師事。ビュッフェ・クランポン・ジャパン専属講師。
田吉佑久子 Yukuko Tayoshi
京都市立芸術大学およびケルン音楽大学(ドイツ)卒業。宇治原明、光永武夫、岡崎耕治、Georg Kluetsch、Ole Kristian Dahl の各氏に師事。
2003年津山ダブルリードコンクール第4位を受賞。
WDRケルン放送管弦楽団、ケルン市立歌劇場、バスク国立オーケストラ(スペイン)などに客演。
ドイツ・エッセンフィルハーモニー契約団員を経て、2010年3月日本フィルハーモニー交響楽団入団、現在、副首席奏者を務める。
信末碩才 Sekitoshi Nobusue
栃木県出身。12歳よりホルンを始める。春日部共栄高等学校を経て、東京藝術大学を卒業。
第86回日本音楽コンクールホルン部門入選。第35回日本管打楽器コンクールホルン部門第3位。ホルンを飯笹浩二、日髙剛の各氏に師事。
現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席ホルン奏者。Horsh、ALEXANDER HORN ENSEMBLE JAPANの各メンバー。ドルチェ・ミュージック・アカデミー東京講師。
2024年6月の第761回東京定期演奏会でR.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番のソリストを務める。
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