未来へつなぐシーズンの幕開け——神戸市室内管弦楽団、5月&6月の注目公演

 3月に神戸市による補助金カットの方針が発表され、存続問題に揺れる神戸市室内管弦楽団。4月16日には音楽監督の鈴木秀美による記者会見が開かれたが、この5月には予定通り今シーズンが開幕を迎える。まさに「ショウ・マスト・ゴー・オン」といった状況だ。新シーズンに向けて、鈴木秀美指揮による第172回定期演奏会(5月16日)と、ロベルト・フォレス・べセス指揮による第173回定期演奏会(6月20日)の両公演について、その聴きどころをご紹介したい。いずれも神戸市室内管弦楽団ならではの高い企画力が発揮されたプログラムであり、あらためてこの楽団の活動ぶりに注目が集まることだろう。

左:鈴木秀美 ©K.Miura
右:タマーシュ・ヴァルガ ©Olga Kretsch

 第172回定期演奏会は『イタリア紀行』と題され、鈴木秀美による音楽の旅が用意される。テーマに掲げられているのはイタリアだが、単にこの国の作曲家の名曲を並べるのではなく、ウィーンとイタリアの結びつきに焦点を当てる。曲はロッシーニの歌劇《アルジェのイタリア女》序曲、ニーノ・ロータのチェロ協奏曲第2番(チェロはタマーシュ・ヴァルガ)、シューベルトのイタリア風序曲第2番、シューベルトの交響曲第6番。1822年にロッシーニはウィーンを訪れて大旋風を巻き起こした。これに刺激されたのがシューベルト。軽快なイタリア風序曲第2番には明白にロッシーニの影響が感じられ、オペラの幕開けを連想させる。交響曲第6番はロッシーニ風の性格を持ちつつ、同時にハイドンやベートーヴェンら先人を模範としながら、結果としてシューベルト独自の音楽が生み出されているところがおもしろいところ。

 ニーノ・ロータのチェロ協奏曲第2番で独奏を務めるタマーシュ・ヴァルガは、ウィーン・フィルの首席チェロ奏者。鈴木秀美とは旧知の間柄で、鈴木がバロック・チェロも弾くヴァルガに5弦のチェロ・ピッコロを貸したことをきっかけに親しくなったという。チェロ協奏曲の有名曲は限られているが、決まりきった曲ばかりではつまらないとヴァルガが提案したのが映画『ゴッドファーザー』をはじめ数々の名曲で知られるニーノ・ロータの協奏曲。映画音楽の巨匠として語られることがほとんどだが、ロータは多数の純音楽作品を残している。晩年に書かれたチェロ協奏曲第2番は新古典主義風のスタイルが採られており、軽やかで爽快だ。生前の作曲者は自身の純音楽作品が前衛の潮流から外れているため時代遅れとみなされることを意に介さなかった。むしろ時流に乗っていないがゆえに、いずれ自作の価値が認められると信じていた節がある。こうしてウィーン・フィルの首席チェロ奏者が作品をとりあげるのだから、その信念の正しさは証明されつつあるといってもよいのかもしれない。

左:ロベルト・フォレス・べセス ©Josep Gresa
右:ホアキン・アチュカロ ©Jean Baptiste Millot

 第173回定期演奏会『からみあう情熱』で指揮を務めるのはスペインのロベルト・フォレス・べセス。オーヴェルニュ国立管弦楽団音楽監督として高い評価を受け、現在はイギリス室内管弦楽団の首席客演指揮者、スペインのエストレマドゥーラ交響楽団首席指揮者兼芸術監督を務める。プログラムは意欲的だ。神戸出身の作曲家、大澤壽人がパリ留学時代に書いた小ミサ曲が世界初演される。ラヴェルが混声合唱とオーケストラのために書いた「道行く恋人たち」は知られざる作品だろう。この曲は近年になって自筆譜が発見され、2024年に世界初演されたばかり。ラヴェルがローマ賞の受賞を目指してカンタータに挑んでいた頃に書かれた初期作品だという。まさかラヴェルの未発表作品があったとは。ともに合唱は神戸市混声合唱団が務める。合唱団との連携が生かされた選曲である。

 さらに生誕150年を迎えるスペインの作曲家ファリャの「スペインの庭の夜」では、93歳のレジェンド、ホアキン・アチュカロがピアニストを務める点も話題を呼ぶ。ピアノ協奏曲のようでもありピアノ付きの交響詩でもあるような独特のスタイルで書かれた傑作である。ビゼー作曲、シチェドリン編曲の《カルメン》組曲は、ひねりの効いたアレンジが楽しい。〈ハバネラ〉や〈闘牛士の歌〉といったおなじみのメロディが、大胆な編曲によって生まれ変わる。管楽器を用いず、弦楽器とおびただしい種類の打楽器を用いた編成が大きな特徴となっている。創意を凝らした編曲によって、見慣れた光景がまったく異なって見える点に妙味がある。

 いずれの公演も、新鮮な発見と驚きをもたらしてくれることだろう。

文:飯尾洋一

神戸市室内管弦楽団 第172回定期演奏会『イタリア紀行』
2026.5/16(土)15:00 神戸文化ホール 大ホール


出演
鈴木秀美(指揮)
タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)

プログラム
ロッシーニ:歌劇《アルジェのイタリア女》序曲
ニーノ・ロータ:チェロ協奏曲第2番
シューベルト:イタリア風序曲第2番 ハ長調 D591
シューベルト:交響曲第6番 ハ長調 D589

神戸市室内管弦楽団 第173回定期演奏会『からみあう情熱』
2026.6/20(土)15:00 神戸文化ホール 大ホール


出演
ロベルト・フォレス・べセス(指揮)
ホアキン・アチュカロ(ピアノ)
神戸市混声合唱団(合唱)

プログラム
大澤壽人(おおさわ・ひさと):小ミサ曲[世界初演]
ラヴェル:混声合唱と管弦楽のための「道行く恋人たち」
ファリャ:スペインの庭の夜(生誕150年記念)
ビゼー/シチェドリン:《カルメン》組曲

問:神戸市民文化振興財団078-361-7241
https://www.kobe-ensou.jp


飯尾洋一 Yoichi Iio

音楽ジャーナリスト。著書に『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』新装版(三笠書房)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『マンガで教養 やさしいクラシック』監修(朝日新聞出版)他。音楽誌やプログラムノートに寄稿するほか、テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザーなど、放送の分野でも活動する。ブログ発信中 https://www.classicajapan.com/wn/