川瀬賢太郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

俊英たちが紡ぐ、北国の哀愁のロマン

 どこか日本人の琴線を刺激するスコットランドの民謡や風物…クラシック音楽を通してそれを体感できるのが、東京シティ・フィルの11月定期だ。
 主力は、ドイツ・ロマン派の作曲家が、スコットランドにインスパイアされて生み出した2つの名作、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」と、ブルッフの「スコットランド幻想曲」である。前者は、初めてイギリスに渡った20歳の作曲者が、当地の古都エディンバラの自然や風物から着想を得た作品。だが完成は33歳時ゆえに、美旋律とスケール感を併せ持つ円熟の名品となった。後者は、当地の歌の曲集に魅了されたブルッフが、複数の民謡を用いて作曲したヴァイオリン協奏曲風の音楽。中でも有名な第3楽章の切ないメロディは、万人の胸を打つ。さらに1曲目は、通常浮かぶ「フィンガルの洞窟」ではなく、初のイギリス旅行の前年にメンデルスゾーンが書いた序曲「静かな海と楽しい航海」。これまさにスコットランド行きの前段にして、そこに向かう海路を示唆したハイセンスな選曲だ。
 指揮は、ポストを持つ神奈川フィルや名古屋フィルの活動も快調な川瀬賢太郎。このところ高関健のもとで充実顕著なシティ・フィルを、活力と推進力漲る川瀬がいかにリードするか? が大いに注目される。ヴァイオリン独奏は郷古廉。堅牢な技量と意志の強い音楽で孤高の存在感を示す彼の表現も、実に楽しみだ。加えて、ブルッフ作品で重要なハープを、期待の俊英・平野花子が受け持つのも魅力。30代の指揮者と20代のソリストがおくる北国の爽やかな空気を、全身で感じたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年11月号より)

第311回 定期演奏会 11/11(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
http://www.cityphil.jp/