フィンランド独立100周年に贈る若きシベリウスの大作
フィンランドが生んだ名指揮者ハンヌ・リントゥが、東京都交響楽団とともにシベリウスの出世作「クレルヴォ交響曲」を披露する。リントゥはこれまでにも日本をたびたび訪れて、母国シベリウスの作品他で好演を聴かせてくれているが、今回は男声合唱と独唱者2名を要する大作「クレルヴォ交響曲」とあって注目が集まる。声楽陣もフィンランド・ポリテク男声合唱団とニーナ・ケイテル(メゾソプラノ)、トゥオマス・プルシオ(バリトン)のフィンランド勢がそろった。実はこの作品を1974年に日本初演したのは渡邉暁雄指揮の都響。オーケストラにとってもゆかりの作品ということになる。
若き日のシベリウスにとって、創作力の源泉となったのは民族主義。ロシア帝国内でフィンランドの自治権が侵食され、フィンランド独立への熱望が高まるなかで、シベリウスは愛国的な感情をよりどころとして作曲に立ち向かった。そして、たびたび作曲の題材として用いたのが、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」である。クレルヴォとはその「カレワラ」の登場人物のひとり。滅ぼされた一族の生き残りクレルヴォは怪力を持つ不死身の子として育ち、放浪の末にそれとは知らずに生き別れの妹と一夜をともにし、やがて破滅へと向かう。
この神話世界の物語に対して、リントゥは「クレルヴォは今日でも世界で起きている暴力や非行の象徴とも言える」と語り、作品の今日性に目を向ける。今この作品を聴く意味を考えさせられる。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2017年10月号から)
第842回 定期演奏会 Aシリーズ
2017.11/8(水)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057
http://www.tmso.or.jp/