ミニマリストがクラシック音楽界の未来を示唆する真夏の4DAYS!
近年、クラシック界での久石譲の存在感が増している。久石は一般には映画やテレビCMなどを彩るハイセンスなメロディーメーカーとして知られているが、『風の谷のナウシカ』(1984)のヒットは、ミニマリズムの影響を受けた作風で80年代初頭にデビューした後のことだ。ダイナミックなオーケストレーションでキャッチーな旋律、場面を喚起するエモーショナルな音楽を生みだす力を考えれば、映画音楽での成功は約束されたものだったのかもしれない。
21世紀に入ってから久石は活動の幅を広げ、オーケストラを相手にライブ演奏にも力を入れる。新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(2004〜)や宮㟢駿監督作品の映画音楽をシンフォニック・オーケストラで演奏するワールド・ツアー(2017〜)、最近ではロンドンでの『となりのトトロ』の舞台版の大成功も伝わってきた。もはや久石は世界で最も名前の知られた日本人作曲家かもしれないが、こうした活動を通じて指揮者としての能力にも熱視線が向けられるようになり、新日本フィルのMusic Partner(2020〜)、日本センチュリー響首席客演指揮者(2021〜)に相次いで就任、既存のレパートリーでも斬新な解釈を聴かせている。
創作の原点であるミニマル・ミュージック
そうした活動と並行して、久石は自らの創作のベースにあるミニマル・ミュージックの紹介にも熱心に取り組んでいる。それが今回取り上げる二つのコンサート・シリーズ、つまり7月25日、26日に紀尾井ホールで開催される「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.11」、7月31日、8月1日にサントリーホールで開催される「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol.7」だ。これらはもともと別の企画だったが、今年は両者を連動させる形で「MUSIC FUTURE SPECIAL 2024」と銘打ち、若手の新作からミニマリズムの古典まで多彩な作品を取り上げる。
2014年にスタートした「ミュージック・フューチャー」は、自作以外にも日本ではまだまだ知られていないミニマル・ミュージックを継続的に取り上げてきた貴重なシリーズだ。今回は世界初演となる自作「Sonatine for Large Ensemble」のほかに、ミニマリズムの第一世代フィリップ・グラスの古典的作品「Two Pages」(1968、久石によるリコンポーズ版)、クロノス・クァルテットが1992年に初演した弦楽四重奏曲第5番、そして久石の後続世代に当たるミニマリスト、デヴィッド・ラングの「Breathless」、マックス・リヒターの「On the Nature of Daylight」が取り上げられる。後者は映画『メッセージ』でも用いられ話題になったエモーショナルな音楽なので、知っている人も多いだろう。他に本企画に関連するコンペティションで選ばれた若手の新作も演奏される。
久石 VS ライヒ!
フューチャー・オーケストラ・クラシックスは、久石が芸術監督として実力派の奏者を束ねたナガノ・チェンバー・オーケストラを発展させたもので、ベートーヴェンやブラームスといった古典を聴かせてきたが、今回は自作の「The End of the World」に加え、ミニマリズムの第一人者、スティーヴ・ライヒの「砂漠の音楽」(1984年オリジナル編成版、日本初演)をプログラミング。この作品はウィリアム・カルロス・ウィリアムズの詩句に基づく全5楽章、50分を要する大作で、催眠的なパルスがシンメトリカルな構造の中に聴き手を絡めとる(合唱は東京混声合唱団)。作曲家・指揮者としての久石の集大成が聴けるのではないだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年5月号より)
JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.11
2024.7/25(木)、7/26(金)各日19:00 紀尾井ホール
JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7
2024.7/31(水)、8/1(木)各日19:00 サントリーホール
両公演 4/26(金)発売
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337
https://joehisaishi-concert.com