松田 弦(ギター)

ギターの持つ多彩なサウンドを追求したい

 レゲエ・ミュージシャンのような独特のヘアスタイルが印象的だが、実際はクラシック・ギタリスト。1982年高知生まれの松田弦は、趣味でギターを嗜む父によって、“弦”と命名されたそうだ。彼はこれまでに、東京国際ギターコンクールやアントニー国際コンクールなど、国内外の8つのコンクールで優勝。録音もすでに数タイトル発表している。そんな若手実力派が、東京オペラシティ『B→C』に登場する(彼の地元・高知でも同一公演を開催)。
 松田のギターは、透明感のある美しい音色と正確無比なテクニックが特長。今回はその持ち味を存分にいかして、ギターの新境地を拓く。
「前半の冒頭では、20世紀イタリアの作曲家シェルシの『コタ−シヴァ神の3つの踊り』の第1曲を演奏します。秘境の大地の鼓動を思わせる作品で、ギターを膝上に横に寝かせて扱います。もう1曲、1960年ブラジル生まれの作曲家&ギタリスト、カンペラの『パーカッション・スタディⅠ』も含め、ギターの持つ打楽器的な魅力をクローズアップします」
 J.S.バッハ作品は、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番」と「リュート組曲 BWV995」を演奏する。
「『ソナタ第3番』は、原曲の最低音とバロックチューニングがもたらすような響きを際立たせたくて選びました。そのために調弦をすべて半音下げ、さらに一番低い第6弦をF♯に上げて演奏します。また、『BWV995』は無伴奏チェロ組曲第5番と同一の作品ですが、ギターだとチェロのように音が伸びないので、今回は和音を適宜加える予定です」
 松田が「前々から自分に合いそうだと感じていました」と語るのが、後半に弾く20世紀アルゼンチンの作曲家ヒナステラのソナタだ。
 「ギターはアルゼンチン人にとって特別な楽器と語っていたヒナステラが、生涯に唯一作曲した傑作がこのソナタ。ギターの技法を極め尽くした書法で、ありとあらゆる特殊技法が使われています。特に最後の第4楽章は、クラシック・ギターというジャンルを超越したカッコよさが魅力です」
 そして後半のラストは、今年が没後20周年にあたる武満徹の最後のギター作品「森のなかで」で締めくくる。
「武満さんの作品は、学生時代に『フォリオス』を初めて弾いた時から、その作風に深く共感してきました。今回の『森のなかで』は、東京オペラシティが武満さんと縁が深いことや、没後20年だからといったこととは関係なく、自然な流れで辿り着いた選曲。ギターの純粋な美しい響きを全身で感じ、お聴きいただければと思います」
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

東京オペラシティ リサイタル シリーズ B→C(ビートゥーシー)
松田 弦(ギター)
11/5(土)19:00 高知県立美術館ホール
問:高知県立美術館088-866-8000
11/15(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
http://www.operacity.jp