自身の音楽的ルーツ、アメリカをテーマに届けるヴィオラの魅力
今年、「ヴィオラスペース」が新展開に入る。昨年までアントワン・タメスティが務めていたプログラミング・ディレクターの任を、NHK交響楽団ヴィオラ首席奏者の佐々木亮が受け継ぐことになったのである。
「1年ほど前、今井信子先生からお話があり、本当に驚きました。オーケストラに所属していることもあり、これまでは与えられる曲を弾く仕事が多く、毎回すばらしいアイディアを出してくるアントワンの後を引き継ぐのは難しいと最初は考えました。でも5月には彼から直接『ぜひ!』と言われ、尊敬するお二人にノーと返すようでは、それまでの自分も否定することになると思い直し、引き受けさせていただきました」
就任後最初に選んだ大テーマは「アメリカン・ドリーム!」。
「アメリカでは東京藝術大学卒業後11年間過ごして、5年間は学生、あとはフリーで演奏していました。その頃に学び経験したことが、いまも自分の核になっていて、この機会にぜひアメリカをテーマにしてみたいと思ったのです」
東京2公演の初日は「アメリカで生まれた音楽」と銘打ち、アメリカ内外の作曲家たちのバラエティに富んだ作品を(5/28)。2日目の「プリムローズ記念」は、今年生誕120年、アメリカで長く活躍したヴィオラ界初のスタープレイヤー、ウィリアム・プリムローズにちなんで(5/29)。「ヴァイオリン専攻だった高校生時代に彼の録音を聴き、『こんなカッコいい演奏聴いたことない!』と惚れ込んで以来、私の最初のヒーローなんです!」と目を輝かせる。
出演者はヴィオラファン垂涎の顔ぶれ。殊にN響の佐々木と村上淳一郎、都響の鈴木学、読響の鈴木康浩と柳瀬省太という都内楽団首席の人気奏者たちが集うのは壮観。2022年東京国際ヴィオラコンクール優勝のハヤン・パクと第3位のサオ・スレーズ・ラリヴィエールの進化ぶりも楽しみだ。もちろん巨匠・今井信子も登場、しかもマルティヌーの協奏曲は貴重! 佐々木は現代アメリカのハービソンの協奏曲を日本初演する。
「ヴィオリストでもあるハービソンの協奏曲は、聴いて一瞬で好きだなあと思えた曲です。個性的だけど美しくて、個人的には歴史に残る作品になると思います。今度アメリカでご本人にお会いできることになり、レッスンもしていただく予定です。ディレクターをお受けしたことをきっかけに、本当にいい経験をさせていただいています」
全体的にも意外性と説得力があるプログラムで、実に面白そう。「様々な方に楽しんでいただけるプログラムを考えたつもりですので、なるべく多くの方に来ていただけたらうれしいです」と語る佐々木が新たに拓く「ヴィオラスペース」、改めて注目していきたい。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年4月号より)
ヴィオラスペース2024 vol.32 アメリカン・ドリーム!
2024.5/25(土)〜5/31(金) 仙台市宮城野区文化センター パトナホール、紀尾井ホール、大阪/ザ・フェニックスホール 他
問:テレビマンユニオン03-6418-8617
https://www.tvumd.com
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。