チャイコフスキーの《イオランタ》を知ってますか?
今年の6月、新国立劇場研修所のチャイコフスキー歌劇《イオランタ》の発音指導を担当しました。
早めに練習を始め、ロシア語を読めるようにし、ロシア語が分かるお客さんにもちゃんと歌詞を聴き取れるようにと、キャストの皆さんは発音練習を頑張りました。皆さんまだロシア語であまり歌ったことがなく、私も先生としてオペラを全部準備するのは初めてで、お互いに色々と勉強になりました。
ロシア語がそこまで大変だと知りませんでしたし、ロシア語がそこまで美しいということにも、もう一度気づかせていただき感動しました。本番も安心して聴くことができました。時々目を閉じたら、ロシア人が歌ってるような感じさえしました。皆さん、本当にありがとう!
この曲はチャイコフスキーの最後のオペラで、他の作品、例えば《オネーギン》と比べたら、ロシア以外にはそんなに知られてないですが、私にとって、ロシアオペラの中で一番美しいものですし、色んな意味で、《イオランタ》はユニークなオペラです。 目が見えないお姫様の話ですが、人間は体だけでなく、魂もあって、二つの世界でできているものだということを強く感じるストーリーです。自分を探し、初めて愛を知り、自己中心的な生命は不完全だと初めて分かって、そして自分を見つける。そこから魂も、身体も目覚める。こんなテーマのオペラはこの作品だけではないかとリハーサルのときにずっと思っていました。
神も、宗教の独断論ではなく、霊的な意味で全てのものに等しく存在するもので、音や花、人間、全ては神の反映である。こんなコンセプトで考えれば、キリスト教も、イスラム教も、仏教も、どの宗教でも受け入れられますね。このテーマは世界性、全人類的な重要性で、どの国の人でもチャイコフスキーの音楽は分かりやすい。
そこまで深い大事な話になっているので、オーケストラも普通の美しい伴奏よりシンフォニーのように言葉で言えないことを伝えてる。もちろん、歌詞も素晴らしい。
今回、気がついたことの一つは、チャイコフスキーの特徴だと思いますが、彼は言葉の流れ、メロディをとても大事にしているので、楽譜通りに歌うだけでもいつも自然なロシア語に聞こえてくるということです。
ロシア語が出来る人は言語からその意味や美しさを深く味わうことができますが、ロシア語がわからない人でも、音楽、人間の声の力だけで充分感動出来る。言葉は脳によって、音楽は直接身体に働きかけ、2つのベクトルから感動を得ることができます。
自分だけがわかっていなかった自分自身の問題に真っ向から向き合うことを決め、周りから見ている人はその不幸に向かっていく大変さにあわれみをかけて、同情の涙を流します。そこから努力した彼女に訪れるハッピーエンドの嬉しさ、感謝の涙。《イオランタ》はこんなものです。本当に人を感動させます。私は毎回涙が出るぐらい感動します。何回聴いても。
人間は年をとればとるほど、“生きること”になれすぎて、驚いたり感動したりしなくなります。硬くなります。硬いものは生きてない。その点、今回のオペラ研修所のプロダクションでは、キャストの皆さんがとても若くて良かったし、この舞台を観たお客さんはラッキーでしたね。
自分の心を綺麗にするために、自分は「今生きている!」ことや感謝しないといけないことをもう一度思い出すためにも、ぜひ《イオランタ》を聴いてみてください。
Information
東京芸術劇場コンサートオペラvol.7
ドビュッシー/《放蕩息子》& ビゼー/歌劇《ジャミレ》
演奏会形式(日本語字幕付・原語上演)
2019.10/26(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
出演
指揮:佐藤正浩
管弦楽:ザ・オペラ・バンド
コーラス:国立音楽大学合唱団
■ドビュッシー《放蕩息子》
リア(母):浜田理恵
シメオン(父):ヴィタリ・ユシュマノフ
アザエル(放蕩息子):宮里直樹
■ビゼー 歌劇《ジャミレ》
ジャミレ(女奴隷):鳥木弥生
アルーン(王子):樋口達哉
スプレンディアーノ(使用人):岡昭宏
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
https://www.geigeki.jp/performance/concert187/