吉井瑞穂(オーボエ)

巨匠80歳のバースデーに響く極上のソノリティ

©Marco Borggreve

世界中のオーボエ奏者と愛好家の尊敬を集める巨匠モーリス・ブルグと、マーラー室内管弦楽団のオーボエ首席奏者として最先端の現場で活躍を続ける吉井瑞穂。師弟の関係にあるふたりが、ブルグの誕生日である11月6日、彼の80歳を祝うコンサートでヤマハホールの舞台に立つ。企画した吉井は「ブルグ先生もヤマハホールさんもたまたまこの日が空いていて、本当に嬉しいご縁です!」と笑顔を浮かべる。
ベルリン・フィルのエキストラ奏者からマーラー室内管の首席を務め、いまや世界的オーボエ奏者として知られる吉井。その彼女が最大級の敬意を払うのがブルグである。

「オーボエ奏者で知らない人はいない、神様みたいな方です。演奏は本当に最高ですし、先生としてもすばらしい方です。若い頃に京都フランス音楽アカデミー(日仏音楽交流事業)でご指導を受けて、深い感銘を受けました。その後マーラー室内管に入ってから、どうしてもブルグ先生に見ていただきたくて、仕事の合間にジュネーヴまで通いました。彼のレッスンは毎回収穫が大きく、忙しかったけれど本当に行って良かったです。それに伴い使っていたオーボエのリードチューブをフレンチに変更するなど、新しい決断をきっかけに演奏の幅も広がりました」

この公演は出演者も演目も多彩。ピアノの今仁喜美子とチェンバロの桒形亜樹子はブルグの信頼厚いプレイヤー。ファゴットのギヨーム・サンタナは現在マーラー室内管で吉井と同僚で、デビュー直後にクラウディオ・アバドに認められて協奏曲を録音したほどの天才的名手だ。本公演は5人が様々な組み合わせで登場。ブルグと吉井の出番を聞いた。

「オーボエ2本のゼレンカのトリオ・ソナタとモーツァルトのソナタK.376の編曲は先生と私、《アルジェのイタリア女》幻想曲とジョリヴェのソナチネは私、ハイドンのトリオとメイン曲のハースの組曲はブルグ先生が担当します。特に、アウシュヴィッツで亡くなったハースの作品には重いメッセージが込められています。ブルグ先生はナチス支配下のフランスでドイツ語が強制された時期も経験されていて、今こそこの曲を通して伝えたいことがあるのではないでしょうか」

吉井は現在、マーラー室内管のポストはそのままに、拠点は日本に移しているとのこと。ソロ公演や日本の楽団への客演など、彼女の名技を聴く機会が増えていることは嬉しい限り。とはいえ、ブルグとの共演はまだ2度目でかなり貴重。
「良い木に包まれる空間は木管楽器と相性抜群で、本当に気持ち良いホールです」というヤマハホールでの記念公演は、居合わせるすべての人が幸せを感じる一夜になるに違いない。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年8月号より)

モーリス・ブルグ80歳記念コンサート
〜愛弟子・吉井瑞穂と若きヴィルトーゾ・ギヨーム・サンタナ、仲間達とともに〜
2019.11/6(水)19:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座ビルインフォメーション03-3572-3171
https://www.yamahaginza.com/hall/