「お酒に聴かせるための交響曲を作り、その音楽を聴かせて酒を熟成させるとどうなるか?」
「交響曲 獺祭~磨migaki~」は2019年、銘酒「獺祭」の蔵元 旭酒造、日本センチュリー交響楽団、音響機器メーカー オンキヨーが参画し始まった前代未聞のプロジェクト。2021年2月に日本センチュリーの本拠地・大阪府豊中市、「獺祭」のお膝元・山口県周南市で行われた「交響曲 獺祭」コンサートの東京公演が、8月18日、グランドプリンスホテル新高輪 飛天で行われた。しかし、緊急事態宣言が発出されている中で、開催には多くの変更を余儀無くされた。
まさに、このプロジェクトの中心人物の一人で、この公演の指揮を行う予定だった日本センチュリーの首席指揮者・飯森範親が新型コロナウイルスに感染、出演することができなくなってしまった。そこで「交響曲 獺祭」の生みの親である作曲家の和田薫が急遽指揮をすることになった。
コンサートは、日本センチュリー交響楽団の第200回定期演奏会を記念して和田が作曲した「祝響~日本センチュリー交響楽団のためのファンファーレ」で幕を開けた。この曲は、決して平坦ではなかった同楽団の歴史と200回もの定期演奏会の積み重ねを音で綴るイメージで作曲したという。
ファンファーレ演奏後、和田は次のようにコメントした。
「本来なら僕はお客様と一緒にゆっくり客席で楽しみたいな、と思っていました。が、まさかのピンチヒッター。日頃運動不足なので心配だが頑張りたい」
続いて「交響曲 獺祭~磨migaki~」、和田のタクトのもと、日本センチュリーが熱演を繰り広げた。
どのような曲か、当日のプログラムに記載された和田自身による解説を紹介したい。
第一楽章は、旭酒造発祥の地であり、獺祭の名の由来となる土地の名前・「獺越(おそごえ)」がタイトル。山々に囲まれた自然、清涼な川の流れ、あらゆる苦難を乗り越え獺祭が生まれるまでの足跡を構成した交響詩的な楽章。
第二楽章「発酵」は、まさに酒が発酵する時に効用的に聴かせる曲。静かに時間が流れるイメージの楽章。
第三楽章「酔心」は、泉鏡花の「白金之絵図」の一節から引用。獺祭を嗜むときに聴くことをイメージした曲。
第四楽章は「熟成」は、酒の熟成時に聴かせる曲。アレグロのテンポ感あるリズムを主体とし、活性作用を促すイメージの楽章。
第五楽章「その先へ」は、獺祭の最上位ブランド「その先へ」の『品質を高めて、新しい価値を生み出すこと』をモチーフに、未来へ飛翔する獺祭をイメージした楽章。
この作品は、旭酒造の桜井博志会長に献呈された。
演奏後に挨拶に立った旭酒造の桜井会長は7月1日、日本センチュリー交響楽団の理事長に就任した。
「『素晴らしいコンサートを聴いたすぐ後にうまい酒が飲めて、美味しいものが食べられる』この広いグランドプリンス飛天なら、感染対策もしつつこれを実現できるのでは、と思い企画しました。しかし残念ながら緊急事態宣言で、お酒の提供は断念しました。お酒は、お土産としてご用意しましたのでご自宅でお楽しみください。今日おいでいただいた皆さまに感謝いたします」とあいさつした。
熱演を繰り広げたオーケストラのメンバーは、演奏が終わるとすぐに品川駅へ。余韻を楽しむこともできず帰阪したそうだ。また、広大な飛天の間に集ったのは、熱いファン100名あまり。十分なディスタンスが確保されつつも、「交響曲 獺祭 ~磨~」を味わいつつ、音楽について語らう、という本来の楽しみは実現できなかった。今回は、厳しすぎる環境となってしまったが、彼らはきっと次なる企画を披露してくれるだろう。皆で美酒を味わえるその時を心待ちにしたい。
交響曲獺祭〜磨 migaki〜 五感で味わうコンサート
https://dassai-migaki.jp/
日本センチュリー交響楽団
https://www.century-orchestra.jp