2023年9月に亡くなった西村朗の最晩年の作品群。「華開世界」は冒頭からメタリックな鍵盤打楽器が絢爛とした音響空間を出現させる。激しく顫動するオーケストラが生み出す音の渦は、まばゆい光となって聴き手を包み込む。三重協奏曲「胡蝶夢」ではハープが紡ぐ妖しいハーモニーを背景に、ヴァイオリンとクラリネットが悲しくはかない歌を歌う。それは次第にセンチメンタルな色合いを帯びてゆく。遺作「神秘的合一」はピアノとオーケストラが奏でる地獄の行進曲。断ち切るような一撃の後、蝋燭の火を吹き消すように管楽器の息が入る。命が涸れるその寸前まで燃焼し続けた創造の記録だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年3月号より)
【information】
CD『華開世界―西村朗 管弦楽作品集』
西村朗:華開世界、三重協奏曲「胡蝶夢」、ピアノとオーケストラのための「神秘的合一」
NHK交響楽団 いずみシンフォニエッタ大阪 パシフィックフィルハーモニア東京
杉山洋一 飯森範親(以上指揮) 小栗まち絵(ヴァイオリン) 篠﨑和子(ハープ) 上田希(クラリネット) 小菅優(ピアノ)
収録:2021年6月、東京オペラシティ コンサートホール(ライブ) 他
カメラータ・トウキョウ
CMCD-28393 ¥3080(税込)