“獺祭”の桜井博志会長に聞く
日本センチュリー交響楽団 理事長就任の舞台裏

桜井博志会長

 7月1日、日本センチュリー交響楽団の理事長に獺祭の桜井会長が就任することが発表された。記者会見の後、桜井博志さんご本人と同楽団 専務理事に就任した小田弦也さんに今回の理事長就任に至るまでのお話をうかがった。理事長就任のいきさつというと、会議室での出来事のような想像をしてしまうが、実際にはとても熱い等身大の物語があった。

クラシック音楽との縁、交響曲 「獺祭」 東京公演について

まずは桜井さんに伺います。クラシック音楽を聴くようになったのはいつごろからですか?

桜井 本当にいいなあと思い出したのは10年くらい前でしょうか。ショパン生誕200年の年に、宮崎で徳江陽子さんが弾くショパンを聴いてからですね。それがきっかけで自宅でも聴くようになりました。でもやっぱり目の前で弾いてくれるほうがいいですねぇ。例えばアルゲリッチが弾くCDを聴くよりも、やはりライブのほうが感動がありますよね。

飯森さんとのお付き合いもその頃からですか?

桜井 飯森さんとの出会いは酒なんですよ。ご自身はお酒を飲まれないのですが、共通の友人でお酒好きな方が『酒と音楽の会』というのを開催していて、そこに飯森さんが若手の音楽家を連れてこられて。その後、センチュリーの公演にもご招待いただきまして、非常に若々しく、密度の高い演奏が印象的でした。

そしてその後、交響曲「獺祭」に繋がっていくのですね?

桜井 本当に前代未聞ですよね(笑)ひとつの酒のために交響曲を作曲してもらい、それで酒を作ったというのも初めてですし、豊中でやって周南(山口)でやって。次は東京でもやりたいよね、という話になって。そのときにずーっと私が思っていたのが、コンサートの後にその場で酒が飲めたらいいのにね、って。そこで、いまコロナ禍でホテルもお客さんが少ないじゃないですか。グランドプリンス新高輪の飛天の間だったら距離も取れるし、しかもあれだけ広いスペースだからこれなら絶対いけるよ、と。こういう時期じゃなかったら、宴会場にフルオーケストラ入れないじゃないですか。今だからこそできるコンサートなんです。

理事長就任の舞台裏

ここからは専務理事に就任された小田さんも交えて、理事長就任の舞台裏の話を伺います。桜井さんは、なぜこの厳しい時期のオーケストラのトップに就任しようと思われたのですか?

桜井 なぜでしょうねぇ。やっぱり最初聞いたときには、うまいこと時間稼いで断ろうと思っていたんですよ(笑)

小田 当初はグランドプリンスで、交響曲 獺祭 東京公演の打合せだったんです。(2021年5月)その場には、桜井理事長と奥様、そして旭酒造の社員の皆さまと、センチュリーからは飯森さんと望月と僕と。で、突然僕から「ちょっとお話があるんですが…」と切り出しまして。一番最初にお会いして「交響曲 獺祭を作りませんか」のお話をしたときの第二弾みたいな感じです。望月副理事長から「なんとか理事長をやっていただけないでしょうか」とお願いをしまして。本当に突然です。

小田弦也さん

桜井 うちの家内も一緒に座ってまして、帰り際に「まぁ、あんたがどう決めてもいいけどね」と言いながら帰るわけですから、脅しですよね(笑)

小田 本当にすみませんでした(笑)

桜井 そんななかで、やっぱりそうは言っても、あれだけ声かけて貰ったら、これはありがたいことで「これはやらないけんなぁ」という。さらに駄目押しのごとく…

小田 僕、手紙出したんです、理事長に。高輪でお願いをして「少し考えさせてくれ」ってことになり、それから3〜4日かけて、本当に考えながら考えながら書いて。オーケストラのことも、僕の気持ちも書いて理事長のご自宅にお送りしたんです。その2日後でしょうか、望月のところにお電話をいただいたということで。

桜井 これは逃げられないと思いました。これを断ったら男じゃないかなという感じになって。それくらいこの手紙は胸に迫るものでしたね。

小田 桜井理事長の「ピンチはチャンス」という言葉にこの2年ぐらいずっと救われてきたので。本当にその言葉に生かされていると思ってなんとか立て直そうと思ってやってきたので。感無量でした。

酒造りもオーケストラも“積み上げていくもの”

今後のセンチュリーの活動について、どのようなことを考えていらっしゃいますか?

小田 世界のオーケストラはどこも、お客さまの減少が続いています。われわれ日本センチュリーもやはり会員様、お客様を一番ケアしていかなければいけないと考え、事務局内に会員担当の専門部署を設けました。お客様が安心して会場に来て「センチュリーの演奏会に来てて良かったなぁ」って言っていただけるような新たなサービスの取り組みについてしっかりと考えています。例えばなんですけど、「コンサートホールは安全。でも行くまでが怖い」というお客様の声が一番多いんです。じゃあ、どうしなければいけないかって、迎えに行かなければいけないんです。大阪の主要駅からシャトルバスを出そうと。

桜井 なるほど。いいねぇ、それおもしろい!

小田 そういうオケは日本でもないと思うので、「センチュリー、お客さんを迎えに行ってるらしいぞ」と。前代未聞ですが(笑)

桜井 いや、前代未聞っていいですよ。そのバスの車内で練習風景の映像だったり何か流れていたりすると、お客さまの気持ちも高まるから圧倒的に満足度は上がりますよね。

小田 いま、それを実現しようと調べているところなんです。

桜井 おもしろい!それに対して「できない理由」が出てくるよね。それを一つひとつ潰していけばできるよ。いけるよ。

演奏面についてはいかがですか?

小田 やはりプロですから、音と演奏のクオリティだと思うんです。そしてクオリティは、保つんじゃなくて上げていかなければならない。そこは旭酒造さんのお酒の造り方とも共通していると思うんですよ。

桜井 おそらく酒を造るのもオーケストラと一緒で「積み上げていくもの」なんですよね。緻密に積み上げていくんです。そうしないと「いい酒」はできない。常に高く高く上がっていかないと、「10年20年変わらない獺祭作っています」というのではダメなんです。3年前といまとは全然違うし、3年先も変わっているだろうし。チャレンジが必要なんです。

お疲れのところ本日はありがとうございました。

 今回の理事長就任の報を受けて、小田さんは号泣したそうだ。記者会見の席でもこみ上げてくるものがあったのか、声をつまらせる場面もあった。また、兼ねてから桜井さんと交流があった首席指揮者の飯森さんは、桜井さんの理事長就任の電話を受けた時、山手線の車中だったにも関わらず涙を流して喜んだそうだ。
 穏やかではあるが確かな信念を感じられる桜井さんの口調、そしてエネルギーに溢れ行動力のある小田さんの対比が印象的だった。彼らを結ぶ強い絆は、今後の楽団の活動をより力強いものにさせていくだろう。

豊中公演の様子(c)Masaharu Eguchi

公演迫る!
交響曲獺祭〜磨 migaki〜 五感で味わうコンサート 東京公演
2021.8/18(水)18:00 グランドプリンスホテル新高輪 飛天

指揮 和田薫(飯森範親から変更 ※8/13主催者発表)
管弦楽 日本センチュリー交響楽団

和田薫:祝響~日本センチュリー交響楽団のためのファンファーレ~(曲目変更 ※8/13主催者発表)
和田薫:交響曲 獺祭~磨migaki~(委嘱作品)

※コンサートとアフターディナー付きチケット。
「交響曲 獺祭 ~磨migaki~」720mlボトルのお土産つき
※緊急事態宣言により、アフターディナーでのお酒類の提供はございません。

五感で味わうコンサート 特設サイト
https://dassai-migaki.jp/index_tokyo.html

日本センチュリー交響楽団
https://www.century-orchestra.jp