小林資典(指揮)

“ウワサの”カペルマイスター登場!読響サマーフェスで真価を明らかに

(C)読売日本交響楽団

  ドルトムント歌劇場で第1指揮者(エアステ・カペルマイスター)と音楽総監督(GMD)代理を兼ねる小林資典が今年8月、読売日本交響楽団の「読響サマーフェスティバル2021」に招かれ、超遅ればせの東日本プロオーケストラ・デビューを果たす。

 ドルトムントはドイツ北西部の大都市でビール、サッカー(ボルシア・ドルトムント)が日本でも有名だが、1904年に発足した市立劇場のオペラ部門では大町陽一郎が68年からカペルマイスター、モーシェ・アツモン(名古屋フィル名誉指揮者)が91年からGMDを務めるなど、日本とも意外に長いつながりがある。

 ジュニアオーケストラ活動が盛んな千葉県に生まれた小林は、音楽好きの母の希望でピアノを習い、小学校入学と同時にブラスバンドでクラリネットを始めた。

 「千葉の高校には百人単位のオーケストラがあり、学生にも指揮のチャンスが巡ってくるうち、指揮者を目指すようになりました」

 進学先を東京藝術大学音楽学部と定め、客員教授として滞日していた米国生まれのスイス人指揮者フランシス・トラヴィスの門を17歳で叩いた。

 「大学院在学中にオペラ指揮を目標と決め、ベルリン芸術大学へ留学、歌劇場の経験が豊富なマティアス・フスマン先生に師事しました」

 ドイツの歌劇場には、まだピアニストからコレペティトゥーア、副指揮者、カペルマイスター、GMD…と一歩ずつ階段を上る指揮者の養成システムが生きている。

 「『外国人は最初の仕事を得るのが大変だよ』と言われ、最初はゲリラ的に電話をかけまくる“押し売り”に徹しました。デュッセルドルフのライン・ドイツ・オペラに『空席あり』と聞きアタックすると『明日、来い』。面接だけかと思い楽譜を持参しなかったら『何か弾きなさい』。歌劇場の譜面を借り、初見で《カルメン》《サロメ》などと格闘した結果、『3週間後からいらっしゃい』と合格したのです。2000年にベルリンの学業と並行する形で始め8シーズン、コレぺとして働きました」

 次第に本番指揮への欲求が募り、2008年にドルトムントの第2カペルマイスターへ転出した。

 「13年にGMDが現在のガブリエル・フェルツに代わり、第1のポストも空席になったので改めてオーディションを受け、昇格しました。僕には世界を飛び回るスターではなく、ある程度1ヵ所に長くいて、地道に日々の稽古を重ねる歌劇場の指揮者の方が向いていると思います」

 18年に大阪交響楽団で日本デビューしたのも、同楽団にしばしば客演するフェルツの縁だ。19年には古巣のライン・ドイツ・オペラのバレエ団の日本公演をBunkamuraオーチャードホールで指揮したが、東日本でオーケストラコンサートを振るのは今回の読響が初めて。

 「シンフォニーとコンチェルト、それも名曲中の名曲ばかり6作品を2日間で一度に手がけるのは怖いです。幸い読響は客席で何度か聴き、経験豊かなオーケストラだと信頼しているので、後は僕なりの“芯”をどう通していけるかです。ドヴォルザークやチャイコフスキーには特に親近感があり、若いソリストの皆さんとも良いかたちでの共演ができればと思います」
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2021年7月号より)

読響サマーフェスティバル2021
《三大協奏曲》2021.8/14(土)14:00
《三大交響曲》2021,8/18(水)18:30
東京芸術劇場 コンサートホール 

6/26(土)発売
問:読響チケットセンター0570-00-4390

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